「雨音ちゃん、そんなに思い詰めないで。いまは何より、自分の体を大事にしなきゃ」玲がそっと声をかけると、雨音は力の抜けた微笑を浮かべた。「うん、わかってる……でも玲ちゃん、もう退院してもいい?ここにはいたくないから」玲は思わず言葉を詰まらせた。雨音の体のことを思い、反射的に止めようとしたが――そのとき、雨音の瞳に浮かぶ涙が見えた。必死にこらえているのに、今にも溢れ出しそうな、限界ぎりぎりの涙だった。その一瞬で、玲の心の中の何かが音を立てて崩れた。「……わかった、今すぐ退院しましょ。もう、ここにいなくてもいいの」玲は彼女の手を握り、そのまま病室へ戻ろうとした。視界の端に、遠く立ち尽くす友也の姿が映る。顔は青ざめ、何かを言いたげにこちらを見ていた。だが背後の女性――あの小さな手が、彼の服の裾をしっかり掴んで離さない。友也は数度、迷うように足を踏み出しかけたが、結局一歩も動けなかった。玲はそんな彼を一瞥しただけで、何も言わずにドアを閉めた。病室に戻ると、先ほどまでの騒がしさが嘘のように消えた。洋太はテーブルの上でお菓子を広げていたが、二人の様子を見てすぐに空気を読み、そっと病室から出ていった。扉が静かに閉まると同時に、雨音の瞳から、ついに堪えていた涙があふれ出した。ぽたり、ぽたり。その涙は止まることを知らず、白い頬を濡らしていく。玲は慌ててティッシュを取り、何度も何度も拭った。それでも、濡れた紙が山のように積もっていくばかりだった。見ているだけで胸が痛む。「……雨音ちゃん、とりあえず落ち着いて、事情はまだ何もわかってないから。友也は確かに奔放な性格だけど、浮気とか、そんな軽い真似をするような人じゃないと思うの。もしかしたら、彼にも何か事情があるのかもしれない。誤解ってこともきっとあるわ」それは玲の本音だった。秀一の部下として行動を共にしている友也なら、芯の部分は誠実で、仲間思いの男のはずだ。さっきの女性は偶然空港で会った、助けを必要とした他人、という可能性もある。だが、雨音はかすかに首を振った。肩が震え、涙が止まらない。「……玲ちゃん、違うんだよ。誤解なんかじゃない。私が勝手に悪く考えてるわけでもない。状況は……私の想像より、ずっとひどいかもしれない。さっき、友也の隣にいた女の子は……彼の初恋の
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