綾は、どうしてもその恥ずかしい真実を口にしたくなかった。あの甘ったるい時間のすべてが、実は自分からの仕掛けで、弘樹の方はいつも拒んでいた――そんな屈辱、玲にだけは知られたくない。綾の瞳に鋭さが宿る。玲と秀一を見据え、あざ笑うように唇を開いた。「私はね、こう見えても貞操観念が高いの。弘樹さんは私をすごく愛してくれてるけど、やっぱり子どもを作るのは結婚してからって決めてるのよ。でも、玲。あんたと秀一はもう結婚してるのに、一か月経ってもお腹に何の兆しもないみたいね。もしかしてあんた――子供が産めない役立たずなの?」「……あら、時代錯誤もいいところね」玲は笑みをすっと引き、冷ややかに言葉を返した。「子どもが産めるかどうかで女性の価値を判断するなんて、よくもまあそんなことが言えるわね」一呼吸置いて、玲は静かに続けた。「それにね、私と秀一さんはまだ結婚したばかり。今はお互いをゆっくり知っていく時期よ。二人だけの時間が楽しくて仕方ないの。子どもを焦る理由なんてないでしょ?あなたこそ、私より自分の結婚の心配でもしておいた方がいいんじゃない?結婚しなきゃ子どももできないんでしょ?」「っ……!」綾は一瞬で言葉を失った。玲の一言一言が、まるで自分の急所を正確に突いてくる。そう、弘樹は最近、自ら婚期を延期していたのだ。綾の胸に煮え立つような怒りが込み上げる。だが弘樹はその横顔に気づくこともなく、視線は玲のほうに釘付けになっていた。特に「二人だけの時間が楽しくて仕方ない」という言葉が出た瞬間、その眼差しがわずかに揺らいだ。もちろん、弘樹にはわかっていた。玲と秀一の結婚が愛情による結果ではなく、ただの協力関係に過ぎないことを。彼らに「夜の営み」など、あるはずがないことも。――それでも。あの日、藤原グループのオフィスで、玲が秀一に抱きつきながら口にした愛の告白を思い出すと、弘樹の拳がそっと握りしめられた。彼の中で、焦りが渦を巻く。時間はもう、そう残されていない。早くすべてを終わらせなければ。沈んだ光が弘樹の瞳を掠め、眼鏡のフレームを押し上げる仕草とともに彼は静かに言った。「玲、できないことは、無理をする必要はないんだぞ」「そうよ、弘樹さんの言う通り!子どもができないなら正直に言えばいいじゃない。何意地張ってるの?」弘樹が
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