今回のアート展で、雨音が玲のために用意したメイン展示会場は、国内の展示会では珍しい「半屋外型」だった。古城の庭園の中央。幕が静かに開いていくと同時に、身の丈ほどの人型彫刻があらわになる。その瞬間、周囲に並べられた百余りのキャンドルが一斉に灯り、色とりどりの花々とともに視界いっぱいに広がった。展示に来る前、多くの人が心のどこかで想像していた。Rの新作はどう変わっているのだろうと。――三年ぶりなら、きっと進化しているはず。もしくは、三年の空白があるなら衰えているかもしれない。だが、実物を目にした瞬間、そんな雑念は一気に吹き飛んだ。ただ、圧倒的な感嘆だけが胸に満ちていく。――今回も、Rはみんなの期待を軽々と超えてきた。顔のない人型彫刻は、流れるように滑らかなラインと立体的なフォルムが美しく、まるで大地そのものを振り返って見つめているかのようだった。表情がないのに、そこには確かに温かさと包容があった。それは、多くの観客の記憶を自然と三年前のデビュー作へと引き戻す。あの時の作品も「温かい人」ではあったが、その温かさにはどこか圧が滲み、見る人は息苦しさすら覚えるのだった。だから評論家たちは、あの作品を「束縛の愛」と評した。けれど今目の前にあるこの新作には、その影が一切ない。気配も、佇まいも、すべてが変わっている。そこにあるのは、ただ心地よさと自由だけ。見ている側の心もふっと軽くなるような、穏やかな解放感だった。普段なら、誰もが夢中で撮影しながら騒いでいただろう。だが、この場は三分経っても、息を呑んだまま静まり返っていた。観客全員が唖然として動けない。なぜなら、もしさっき聞いた言葉が幻聴でなければ、玲が、壇上でこう言ったのだ。――私こそがR。ありえない。そんなはずがない。会場にいる誰もが同じ思いを抱き、思考が止まった。玲は、高瀬家に引き取られた継娘だったはずだ。藤原家に嫁いでからは、秀一の庇護がなければ上流階級で生きられない、弱い小娘だと思われていた。そして何より、彼女はRの話題に便乗しようとする卑しい女。その程度にしか見られていなかった。なのに、どうして。どうしてその本人が、世界的に崇拝されるアーティストRだと言うのか?「ありえない!絶対にありえないわ!」鋭い叫びが人混みの中から響いた。中年の女が、
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