翌日退院を控えているので、もし玲が手伝いに来てくれれば、雨音が友也と二人きりで過ごす時間もぐっと減る。それは雨音にとって、正直ありがたいことだ。昨夜、二人の間に交流が少なかったものの、友也が自分のためにあれこれ世話を焼く姿を見せられ、雨音は――「離婚届を友也の顔面に叩きつけてやる」と固く決意していた自分の気持ちが、すこし揺らぎはじめているのを自覚していた。けれど玲はそんな雨音の胸の内など知らない。帰る前、彼女は少し迷うように足を止めた。「雨音ちゃん……烏山さんが私を狙ったのって、本当に、ただ自分が不幸な時に、私の幸せが目について腹が立ったってだけだと思う?」「もちろんだよ」雨音はきっぱりとうなずいた。「考えられる理由なんて、それくらいしかない。あとは――可能性はすごく低いけど、烏山さんが好きな人は藤原さんで、彼を横取りした相手が玲ちゃんっていう超絶こじれた構図……だから彼女がふたりにまとわりついてる、とかね。まぁ、そんなの可能性なんて限りなくゼロに近いと思うよ」だって――秀一は玲と出会う前、誰かを本気で愛したことなど一度もない。それに、あの完璧と言っていいほど誠実な人が、恋人が植物状態になった途端に他の女性へ乗り換えるなんて、どう考えてもあり得ない。しかも玲は昔から一直線な性格で、どちらかといえば「奪う側」ではなく「奪われる側」。他人の恋人を横取りするなんて、絶対にしないタイプだ。――そんな話、荒唐無稽すぎる。ようやく玲も、ふっと肩の力を抜いた。「そうだよね。秀一さん、親しくしている女性なんていないし、仲がいい相手はいつも男性ばかり。あんなドロドロした恋愛劇なんて起こるはずがないよね」玲は軽く笑い、それ以上悩むのをやめた。「烏山さんたちももう警察に連れて行かれたし、これから先もう関わることもないはず。私は秀一さんのことで頭を使わないと。あんな人たちのこと、考えるだけムダだよね」そう言って雨音に手を振り、そのまま玲は――秀一を安心させるための「作戦」に気持ちを切り替えるのだった。……そして、あっという間に夜になった。秀一が自ら車を運転して帰宅すると、リビングで玲がローテーブルにちょこんと座り、何かの書類に真剣な面持ちで向き合っていた。その小さな後ろ姿が、胸にじんわりと沁みるほど愛らしい。思わず秀一の表情も柔らかく
Read more