All Chapters of そろそろ別れてくれ〜恋焦がれるエリート社長の三年間〜: Chapter 391 - Chapter 393

393 Chapters

第391話

秀一は、雪乃と佳苗が今日、玲を拉致しようとしていたことをすでに把握していた。自分が先回りして計画を潰しておけば、雪乃は諦めて会場から姿を消す――そう読んでいた。だが、そのわずかな隙を突くように、雪乃は玲の命を奪おうと動いた。その一瞬の油断が、秀一にとって一生悔いを残す出来事になりかねなかった。だからこそ、もう一秒たりとも待つつもりはなかった。秀一は鋭い眼差しで雪乃を射抜く。「俺がお前をしばらく泳がせていたのは、玲の気持ちが整うのを待つためだ。お前の所業を聞いて、玲が傷つかないように……その時間が必要だった。だが、その間もお前は玲を狙い続けた。なら、これ以上待つ理由はない」秀一の声は冷たく落ちる。「高瀬雪乃。お前は玲の実父を殺し、私利私欲のために崖から突き落とした。それなのに、遺族の顔をして同情を引き、嘘を重ねた」一拍置き、静かに宣言する。「今日、お前を警察へ連れていく。玲に代わって訴訟を起こし、法廷には――最も重い刑。死刑を求めるつもりだ」玲が望んでいるのは、雪乃に一生刑務所で償わせること。だが秀一の考えは違う。――雪乃には死をもって罪を償わせるべきだ。その覚悟のこもった言葉が落ちた瞬間、控室の空気は凍りついた。玲は息を呑んで目を見開き、雪乃は反射的に怒鳴り返した。「死刑?秀一さん、あんたが正気じゃないって綾さんが言ってたけど……本当にそうだったのね!私が玲の父親を殺した?崖から突き落とした?バカ言わないで!証拠は?あるわけないでしょ!証拠もないのにそんなこと言うなんて、誹謗中傷、脅迫よ!訴えられるのはむしろあんたのほうじゃない!」怒気に満ちた声で秀一を威嚇する雪乃。だがよく見れば、彼女の全身は小刻みに震えていた。ひねり上げられた腕も、痛みに痙攣している。もちろん、証拠はとうに揃えてある。秀一が洋太へ視線を向けると、すぐに彼は外から血まみれの武を引きずって連れてきた。ほとんど瀕死の状態で、護衛に投げ出されるように床へ倒れ込む。雪乃が目を見張り、玲が息を呑む間もなく、武は怯えた犬のように震えながらかすれ声を漏らした。「も、もう……もう殴らないでくれ……あ、あの時のこと……全部言う……全部言うから……玲さんの父親を殺したのは、雪乃だ……!あれは事故なんかじゃない……雪乃が仕組んだ殺人だ!
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第392話

武は当時、あの観光地のスタッフとして働いていた。雪乃から「協力してくれたら大金を払う」と持ちかけられ、欲に目がくらんでしまった彼は、ただの再婚のために立てられた恐ろしい計画に手を貸すことにした。とはいえ、武は所詮一般人。一人の人間を本気で殺す度胸など、彼にはなかった。それでも彼は、山の中腹で「点検中」と理由をつけて登山者たちを足止めし、少しだけ時間を稼いだ。雪乃がすでに動いたはずだと見当をつけて、ようやく様子を確認しようと山を登っていった。だが、武の予想は半分しか当たっていなかった。雪乃は確かに行動を起こしていた。しかし――玲の父、正弘はまだ生きていた。彼は、玲がいつも話していた通り、体が丈夫で、登山や野外活動にも慣れた人物だった。信じていた妻に突き落とされようと、彼には強い生への執念があった。崖際の手すりに必死でしがみつき、落ちまいと耐え、雪乃の企みを悟ってからは、わずかな生存の可能性に賭けて声を絞り出した。「雪乃……ほかに好きな人ができて離婚したいなら、そうすればいい。再婚のためにまとまったお金が必要なら、家の貯金は全部お前に渡す。家も売って、その金も全部持っていけばいい。俺は何もいらない。ただ玲だけは……あの子だけは俺に残してくれ。この命は、あの子を守るためだけに使うよ。頼む……どうか、見逃してくれないか?」正弘は目を真っ赤にしながら、雪乃へ懇願した。男同士だからこそ、武にはわかった。正弘の言葉は、建前でも駆け引きでもない――父としての本音だ。その目にあるのは、玲への深い愛と、それ以上の不安だけ。なにしろ雪乃は保険金目当てで夫を手にかけようとするような女だ。まともな母親としてふるまう可能性は限りなく低い。もし彼女が再婚相手のもとへ玲を連れていったら、どうなる?玲は傷つかないか?つらい思いをしないか?正弘が恐れていたのはそこだった。あれほど大切に育ててきた娘が、「親に捨てられた子」と噂され、いじめられる未来――それだけはどうしても避けたかった。だからこそ正弘は、玲を守れるなら、家も金も、何もかも捨てる覚悟でいたのだ。当時の武でさえ、胸を締めつけられるような気持ちになった。もしこの時雪乃が引き下がっていれば、すべてが丸く収まったはずだ――武はそのわずかな希望に、心からすがりついていた。しかし、雪乃は違う行
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第393話

後々面倒にならないよう、雪乃はあの日、最初から夫を始末しようと決めていた。彼が手すりにすがって何を言おうが、命を助けるつもりなどはじめからなかったのだ。そして武は、その残酷さと冷酷さを思い知らされた。雪乃から受け取った報酬など、巨額保険金のほんの一部だったし、雪乃が高瀬家へ嫁いだあとは以前より豊かな暮らしをしていると噂で聞いた。それでも武は、一度も「もっとよこせ」と要求したことはなかった。そんな度胸はなかった。あの女に逆らったら、自分も消される、武は心底そう思っていた。金より命が大事。だから彼は二度と雪乃には近づかなかった。だが、悪事に加担した者には、必ず報いが来る。十三年という歳月が過ぎても、それは変わらない。そして今、武の「報い」がついに訪れた。……秀一の声は、凍りつくように低かった。「山田武は、犯罪に加担した一員として、すでに調書を取らせてある。それから三ヶ月前から、俺の部下に現場の再調査をさせた。事件当日、山を登ろうとした十三名の観光客が、山道に問題があると言われ、武に引き返すよう説得された――この証言もすでに取れている。さらに、海外からデータ復元の専門家を呼び、十三年前の観光地の監視カメラ映像を修復した。そこには、雪乃が石で監視カメラを破壊している姿がはっきり映っていた。加えて、崖の手すりには玲の父親が最後に掴んだ痕跡が残っていた。乾ききった血痕も検出され、DNAも一致した」……ほかにも細かな証拠はいくつもあった。雪乃が犯人だと示すものばかりだった。十三年という歳月は長い。だが技術の進歩と、秀一の徹底した調査の前では、雪乃が泣き叫んで被害者のふりをした時に隠し通した罪は、すべて掘り起こされてしまった。これだけの証拠と、藤原グループが抱える弁護士チームがそろえば――秀一の望む「死刑」でも、玲が望む「無期懲役」でも、どちらでも実現は容易だった。その言葉を聞いた瞬間、雪乃は壁に寄りかかり、まるで魂が抜けたように青ざめた。正確には、武が控室に放り込まれた時点で、雪乃はすでに腰を抜かしそうだったのだ。ただ護衛に腕を押さえつけられていたため、崩れ落ちることすらできなかっただけ。ひと月以上前から、秀一が玲のために裏で動いていることは薄々感づいていた。だが、どこまで調査が進んでいるのか知らず、「まだ大丈夫
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