秀一は、雪乃と佳苗が今日、玲を拉致しようとしていたことをすでに把握していた。自分が先回りして計画を潰しておけば、雪乃は諦めて会場から姿を消す――そう読んでいた。だが、そのわずかな隙を突くように、雪乃は玲の命を奪おうと動いた。その一瞬の油断が、秀一にとって一生悔いを残す出来事になりかねなかった。だからこそ、もう一秒たりとも待つつもりはなかった。秀一は鋭い眼差しで雪乃を射抜く。「俺がお前をしばらく泳がせていたのは、玲の気持ちが整うのを待つためだ。お前の所業を聞いて、玲が傷つかないように……その時間が必要だった。だが、その間もお前は玲を狙い続けた。なら、これ以上待つ理由はない」秀一の声は冷たく落ちる。「高瀬雪乃。お前は玲の実父を殺し、私利私欲のために崖から突き落とした。それなのに、遺族の顔をして同情を引き、嘘を重ねた」一拍置き、静かに宣言する。「今日、お前を警察へ連れていく。玲に代わって訴訟を起こし、法廷には――最も重い刑。死刑を求めるつもりだ」玲が望んでいるのは、雪乃に一生刑務所で償わせること。だが秀一の考えは違う。――雪乃には死をもって罪を償わせるべきだ。その覚悟のこもった言葉が落ちた瞬間、控室の空気は凍りついた。玲は息を呑んで目を見開き、雪乃は反射的に怒鳴り返した。「死刑?秀一さん、あんたが正気じゃないって綾さんが言ってたけど……本当にそうだったのね!私が玲の父親を殺した?崖から突き落とした?バカ言わないで!証拠は?あるわけないでしょ!証拠もないのにそんなこと言うなんて、誹謗中傷、脅迫よ!訴えられるのはむしろあんたのほうじゃない!」怒気に満ちた声で秀一を威嚇する雪乃。だがよく見れば、彼女の全身は小刻みに震えていた。ひねり上げられた腕も、痛みに痙攣している。もちろん、証拠はとうに揃えてある。秀一が洋太へ視線を向けると、すぐに彼は外から血まみれの武を引きずって連れてきた。ほとんど瀕死の状態で、護衛に投げ出されるように床へ倒れ込む。雪乃が目を見張り、玲が息を呑む間もなく、武は怯えた犬のように震えながらかすれ声を漏らした。「も、もう……もう殴らないでくれ……あ、あの時のこと……全部言う……全部言うから……玲さんの父親を殺したのは、雪乃だ……!あれは事故なんかじゃない……雪乃が仕組んだ殺人だ!
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