もし弘樹がこれ以上「秀一が犯人かどうか」にしつこく食い下がるなら──玲はもう、斎場だからといって秀一を止めるつもりはなかった。話がわからない相手には、秀一が拳でわからせればいいとすら思っていた。しかし次の瞬間、弘樹は言葉を続けることができなかった。茂が強めの力で彼を横へ押しやり、一人で玲と秀一に向き合い、まるで昔からの親戚のような優しい笑顔を浮かべる。「玲、秀一くん。二人があんな大変な目に遭っていたとはな……でも、無事だったなら、それが何よりだ」それから玲に向き直り、穏やかに言った。「玲、今はお腹に赤ちゃんがいるんだから、まずはゆっくり休みなさい。お母さんのことを思うとつらいだろうが……玲が悲しみすぎると、きっと彼女も天国で心配するよ」そして秀一には、先ほど弘樹が吐いた暴言を払うように、やわらかく笑みを向けた。「秀一、さっき弘樹があんなことを言って、本当に悪かった。どうか大目にみてやってくれ。君はもうすぐ父親になるだ、後でお祝いの品を送らせてもらうよ。これから、私たちの代が掴めなかった幸せの分まで、二人がいっぱい幸せになってくれ」茂はそう言いながら秀一の肩を軽く叩いた。その表情には、ふと昔を思い出したような影が差し、目元がかすかに赤く染まる。そして眼差しは、まるで秀一を通して、他の誰かを見ているかのようだった。茂の様子に、玲は思わず息を止める。彼が言った「私たちの代が掴めなかった幸せ」とは──少なくとも、雪乃とのことではないように思えた。だが、それが誰との関係を指すのかはわからない。秀一へ対する思いがけない茂の優しさを感じながら、玲の胸の中に、寒気を帯びた考えが浮かんでしまう。彼女は表情にそれを出さないよう努めながら、茂ではなく、ただただ雪乃の安らかな顔をみていた。そしてスタッフが遺体を冷凍庫へ移す準備を始めた時、玲はそっと席を外して廊下へ向かった。外へ出ると、それまでこらえていた緊張が一気に押し寄せ、玲は壁に手をつきながら深く息を吐く。手のひらには冷たい汗が滲み、白い壁に落ちるその跡が自分の動揺を物語っていた。――もしかして、雪乃を殺させたのは、茂なのでは?そんな考えが、さきほど茂の優しげな視線を受けた瞬間に頭をよぎったのだ。あの日、犯人と通話していた黒幕が、秀一のことをやけに気遣っていた。そして、最近秀
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