人の気配ひとつないこんな山奥――秀一は、果たして自分を見つけられるのか。そもそも自分はその時まで、持ちこたえられるのか。答えはわからない。それでも玲は、ただ生き延びるために身体を引きずった。手のひらは何度も地面に擦れ、すでに血が滲んでいても、止めることはできない。だが、犯人はすぐ戻ってきたようだ。どれほど這ったかわからない頃、背後から獣じみた怒声が響いた。「何?消えた?クソ!あの小娘、どこへ逃げやがった!」空気を裂くような声に、玲の全身が強張る。慌てた拍子に、腰を岩に激しくぶつけ、視界が一瞬白くはじけた。痛みが波のように押し寄せても、ここで倒れこむわけにはいかない。捕まれば殺される――それはだめだ。死にたくない。まだ、終わりたくない。怯えが限界を超えた瞬間、玲の中で何かが静かに切り替わった。恐怖が霧のように消え、代わりに冷たい覚悟が満ちてくる。玲は崖際まで身体を引きずり、そこで止まった。足元は断崖。一歩間違えれば命はない。――でも、ここなら。正面からプロの殺し屋だと思われる大男に勝てるわけがない。生きたいなら、命を賭けて争うのみだ。玲は崖端の藤蔓を掴んだ。若い蔓は強そうで、まるで縄のようにしなる。その表面には小さな棘が並んでいたが、痛みなど気にしていられなかった。手にぐるぐると巻きつける。棘が肉に食い込み、滲む血が蔓を赤く染める。それでも、玲は眉ひとつ動かさない。ちょうどその時、ついに男が玲を見つけた。二人は初めて真正面から視線を交わす。玲は目を細めて相手を観察し、そして確信する。容姿に目立った特徴がなく、会ったこともないこの男は、誰かの依頼を受けて「仕事」をしていた殺し屋だと。男は軽く嗤った。その手には大きな麻袋と酒のボトルがぶら下がっている。「いたのか、玲さん。戻ったらいないから焦ったよ。ほんとは麻袋に詰めて燃やすつもりだったんだが……自分から崖に来てくれるなんて、死に方を選べてラッキーだな?」裏で「秀一に気づかせない」と電話で話していた内容も、勝ち誇った口調でべらべらと口にする。燃やして灰にしてしまえば、当然秀一も見つけようがない。玲は冷笑を浮かべた。恐怖も涙もない。目には、斬りつけるような強さだけが宿っている。「殺したいなら、やってみれば?」不安定な足場のまま、きっぱりと言い
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