しかし茂は、すっかり自分の感情に飲まれ、周りが見えなくなっていた。秀一の顔色が明らかに暗くなっていても、彼はまったく動じない。それどころか、怒りを露わにして声を荒げた。「秀一くん……君の母親は、少し調子に乗りすぎた。私はあれほど大掛かりな計画を、時間も労力もかけて成し遂げたんだ。それなのに彼女は、すでに子どもも夫も失っていたというのに――最後まで、私が差し伸べた手を受け取ろうとしなかった。最期の瞬間まで、私を拒み続けたんだ」その声は、次第に低く、歪んでいく。「だからこそ……あのとき、私の中に溜まり続けていた不満も悔しさも、一気に噴き出した。彼女の気持ちなど構わず、無理やり連れて行こうとしたんだ。だが……あのときの紀子は、あそこまで衰弱していたにもかかわらず、それでも必死に抵抗した。私は焦り、怒りに任せて力を込めた。その瞬間――」茂は一拍置き、低く告げた。「紀子は、ベランダから真っ逆さまに落ちていった」そのときの紀子の細い身体は、まるで風に舞う、儚い花びらのようだった。茂は反応する暇もなく、手を伸ばすことすらできなかった。彼女がベランダから落ち、地面に叩きつけられ、血に染まっていく光景を――ただ、呆然と見ていることしかできなかったのだ。その場面は、十数年が経った今も、何度となく彼の脳裏に蘇る。まるで鈍い刃で神経を削られるように、執拗に、彼の心を縛り続けていた。茂の告白とともに、病室は沈黙に包まれた。今回は、床に崩れていた美穂でさえ目を見開き、言葉を失っている。――そして、画面の向こうにいる玲も。玲は思わず口元を押さえ、瞳も激しく揺れた。まさか、重度のうつ病による自殺だと信じられてきた紀子の死が、実際は茂の手によるものだったなど、誰が想像しただろうか。一方、秀一の周りに、底知れぬ闇が立ち込めていた。深く沈んだその眼差しには、もはや隠しきれない殺意が渦巻いている。「……やはり、あなただったのか。あなたが……俺の母を殺した」秀一は誰にも多くを語らなかった。これまで、誘拐事件の真相を追い、美穂の背後にいる黒幕を探し続けてきたのは自分のためだけではない。母の死にも裏がある――そんな疑念がずっとあったから、動き続けたと。そして今、そのすべての真実が、白日の下に晒された。だが茂は、そんな秀一の言葉を受けても、な
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