橙色の光が、薄く閉じたカーテンの隙間から差し込み、リビングの空気を柔らかく染めていた。日が傾き、家具の影は長く伸び、テーブルの脚や床に積まれた荷物を褐色に縁取っている。窓を少し開けているせいか、外からは夕方特有の冷えた風が入り込み、部屋にこもった生活臭をゆっくりと薄めていった。湊はソファの端に座り、膝の上で指を組んだまま動けなかった。組んだ指先はじんわりと汗ばんでいて、何度も握り直しては同じ姿勢に戻ってしまう。耳の奥では、さっきまでの瑛の言葉が、低い声の余韻と共に反響していた。住み込みで世話したる。その代わり…抱かせろや。何度頭の中で繰り返しても、やはりそのままの意味にしか取れない。冗談にしては目が真剣すぎたし、脅しにしては声が穏やかすぎた。どう答えればいいのか、言葉が見つからない。瑛はといえば、湊の数歩先、テーブルの上に残った細かなゴミをひとまとめにしている。袋が小さく音を立て、何か硬いものがぶつかり合う。淡々とした手つきに、焦らせようとする気配はない。それが逆に、湊の迷いを際立たせた。断るのは簡単だ。だが、瑛の言葉が示すように、今の暮らしを自分ひとりで立て直すのは難しい。前回きれいにしてもらってから、一か月も経たずにまた同じ状態に戻した。今回も片付けが終われば、その安心感のまま日々を過ごし、また散らかすのは目に見えている。自分の意志の弱さは、もう何度も思い知らされた。けれど、条件が条件だ。身体を預けるということは、ただの生活支援とは違う。頭では線を引こうとするのに、胸の奥には、あの夜の感触が残っている。触れられたときの体温や、耳元で混じった呼吸、そして何より、自分の奥底まで揺さぶられた感覚。思い出すたび、理性が少しずつ揺らいでいく。瑛がゴミ袋の口を結び、軽く床に置く音が響いた。そのままゆっくりと湊の方を振り向く。視線がぶつかる瞬間、胸の鼓動が跳ねた。逃げるように目を伏せると、長い沈黙が落ちる。時計の秒針の音すら、やけに大きく感じる。瑛は何も言わない。ただ待っている。その待ち方は、責めるで
Last Updated : 2025-09-04 Read more