食器を洗い終えた瑛が、タオルで手を拭きながらダイニングから戻ってきた。湊はまだ椅子に座ったまま、視線を落としていた。テーブルの上には、湯気もすっかり消えた茶碗と箸がきちんと並べられ、さっきまでの温かい食卓の気配だけが残っている。瑛が近づく足音は、フローリングを柔らかく叩く。湊が顔を上げる前に、肩に重みが落ちた。大きな手が、じんわりとした熱を伝えてくる。昼間に感じた穏やかな接触とは違う、温度の質が変わっていた。「…風呂、先入ってこい」低く抑えた声が耳元に落ち、空気が微かに震える。湊は短く息を吸い込み、目を逸らした。返事をする代わりに立ち上がると、瑛の手が自然に肩から滑り落ちていく。その感触が背中の奥まで残った。浴室から戻ると、部屋の灯りは間接照明だけになっていた。ダイニングの光は落とされ、寝室の扉が半開きになっている。カーテン越しに街灯の光がぼんやりと差し込み、床に淡い影を作っていた。中に入ると、瑛はソファの端に腰をかけ、携帯をテーブルに置くところだった。視線が合うと、何も言わずに立ち上がり、湊の方へと歩み寄ってくる。距離が一歩ずつ詰まるたびに、胸の鼓動が速くなる。肩に再び手が置かれる。今度は指先がゆっくりと首筋へ滑り、肌の温度を確かめるように触れる。湊は反射的に息を止めた。背筋が粟立つ感覚と、そこから逃げたいのに足が動かない感覚が同時に押し寄せる。「…ベッド行こか」拒否の言葉は、喉まで上がってきた。だが、それを押し返すように契約の現実と、自分の中にある弱さが形を成す。そうして結局、湊は何も言えないまま、瑛に導かれるようにしてベッドへ向かった。掛け布団の端に腰を下ろすと、シーツから洗い立ての柔らかい香りが立ちのぼる。すぐ隣に立った瑛の体温が、何もしなくても伝わってくる。頬に触れる指が、少しだけ冷たかった。けれど、顎のラインをなぞるにつれ、その温度はじわりと上がり、肌がそこだけ敏感になる。視線を合わせられず、湊は瞼を伏せる。耳の近くで、呼吸の音がした。浅くも深くもない、一定のリズム。その吐息が髪を揺らし、うなじに触れた瞬間、身体の奥で何かがわずかに跳ね
Dernière mise à jour : 2025-09-09 Read More