蛍光灯の白い光が一様にデスクを照らし、パソコンのモニター越しに湊の視界は淡々とした色をしていた。午前中のメール処理と書類整理を終え、次の案件に取り掛かろうとする。電話のコール音とキーボードを叩く音が、背景のBGMのように耳に馴染んでいる。京都支社に異動してから数か月、この一定のリズムが湊の日常になっていた。「大塚さん、このあとお昼どうします?」背後から掛けられた声に、湊は手を止めて振り返る。坂井がそこに立っていた。肩までの髪を軽く巻き、控えめな笑みを浮かべている。社内では柔らかな印象で通っている彼女だが、視線の向け方が妙に近い。「まだ決めてませんけど…」返事を濁すと、坂井は一歩踏み込むように机に手をかけた。「近くに美味しいパスタのお店があるんですよ。今度一緒に行きません?」軽く笑って断ろうとした湊は、その言葉の「今度」という曖昧さに引っかかる。今日ではないが、予定を作ろうとしている…そう感じた。「そうですね…また時間が合えば」努めて柔らかく返すと、坂井は「じゃあ楽しみにしてますね」と言い、ゆっくりと離れていった。その背中を目で追いながら、湊は首筋に残る微かな緊張を振り払う。午後の会議までの間、彼女は何度か湊の席を訪れた。資料の確認や進捗の共有といった理由はあるものの、わざわざ自席から歩いてくるほどの用件ではない気がする。彼女の声が耳に近づくたび、机に影が落ちるたび、心の奥でわずかな波紋が広がる。会議室への移動のときも、廊下で並んで歩く距離が妙に近い。袖口がかすかに触れた瞬間、湊は反射的に半歩退いた。坂井は何事もなかったように話を続けるが、その目元には一瞬だけ、愉しげな色が差した気がした。昼休み、湊は別の男性社員と外に出るつもりだったが、エレベーター前で再び坂井と鉢合わせる。「奇遇ですね、一緒に行きましょうか」その誘いを笑顔でかわしながら、心の中で小さな棘のような感覚が残る。断るたびに、相手の笑顔がほんの僅か固くなるのを見逃さない。午後のデスクワークに戻ると、坂井は自席で電話をしていた。ふと視線を感じ
Last Updated : 2025-09-19 Read more