予期していた衝撃が肌を打つことはなかった。振り下ろされようとした美玲の手首を掴み、その動きを封じたのは、当事者である素羽ではなく、書斎から姿を現した司野であった。司野の姿を認めた瞬間、美玲の顔に張り付いていた憤怒は、甘えを含んだ被害者然とした態度へと一変した。彼女は赤くなった頬を突き出し、縋るように訴える。「お兄ちゃん、見てよ!素羽が私を殴ったの!」司野は無機質にその手を離すと、冷徹な問いを投げかけた。「……なぜここに来た」期待していた加勢が得られず、美玲は不満げに眉をひそめて繰り返した。「お兄ちゃん、聞いてる?素羽が私に平手打ちしたって言ってるのよ」司野は、もはや痕跡すら残っていない美玲の頬を一瞥しただけで、答えの代わりに突き放すような言葉を返した。「お前が彼女を怒らせるような真似をしたんだろう?」「……あの猫が先に引っ掻いてきたのよ!」美玲は傷のついた手の甲を差し出し、溢れんばかりの不満を爆発させた。だが、司野の返答は再び彼女を突き放した。「だんごは温厚な猫だ。こちらから手を出さない限り、牙を剥くことも爪を立てることもない」美玲の耳には、それが「お前が余計なことをした自業自得だ」という宣告にしか聞こえなかった。「お兄ちゃん!」声を荒らげて抗議する妹を、司野は一顧だにしない。その苛立ちなど耳に入らぬかのように、淡々と言い渡した。「用がないなら、さっさと帰れ」だが、美玲は引き下がるどころか、さらに食ってかかった。「……そもそも、なんで『あいつ』がまだここに居座ってるのよ?」「あいつ」とは、言わずもがな素羽のことだ。「素羽は俺の妻だ。彼女が自分の家にいて、何がおかしい」「何言ってるの?二人はもう離婚したんでしょう!?」美玲の驚愕した声が響く。世間を騒がせたニュースを知らぬはずもないのに、今さら何を言っているのか。「過去も、現在も、そしてこれからも、素羽は俺の妻だ」司野の瞳に、警告の色が宿る。「二度と彼女に対して無礼を働くことは許さない。次があれば、小遣いを凍結すると思え」それは、美玲の生命線を握るという冷酷な宣言だった。腹に据えかねる思いを抱えながらも、彼女は黙り込むしかなかった。不承不承ながら「……わかったわよ」と絞り出す。忌々しげに素羽を睨みつけた美玲の
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