司野は、その大半の時間を多忙なスケジュールに費やしていた。終わりの見えない公務に追われ、会議は途切れることなく続く。素羽が彼と顔を合わせるのは、決まって眠りにつく直前だった。素羽にとって、この状況はむしろ好都合である。もし司野が忙しさのあまりホテルへ戻らないのなら、それに越したことはなかった。一方の司野は、仕事を終えてホテルに戻るたび、素羽の姿を目にするだけで全身の疲れが霧散するような心地を覚えていた。胸の奥に温かな灯がともり、自らの選択が間違っていなかったと、いっそう確信を深めていく。歩み寄り、素羽を腕の中へと閉じ込めると、その首筋に顔を埋め、彼女の香りを深く吸い込んだ。「午後は部屋でずっと寝ていたそうだな。気分が悪いのか?」素羽の声は凪いだ水面のように静かだったが、その言葉には鋭い棘が潜んでいた。「あなたに抱かれていると、気分が悪いどころか、吐き気がするわ」司野は彼女の唇を指先でなぞる。「その口は、相変わらず人を喜ばせることを知らないな」「……いつになったら帰れるの?」問いには耳を貸さず、司野は独り言のように続けた。「俺が付き添えなかったから、退屈させてしまったか」素羽は内心で吐き捨てる――この男は、人の言葉を理解する気があるのだろうか。司野は彼女の細い指先を弄びながら言った。「明日の午前中は仕事がない。どこかへ連れて行ってやる……ここ数日、ろくに食べていないだろう?また痩せたな」その気遣いは、素羽の心に一片たりとも届かなかった。彼女は弄ばれていた指を引き抜く。「……眠いわ」言い捨てると、素羽は立ち上がり、寝室へと姿を消した。身なりを整えた司野も、あとを追うようにその中へ入っていく。——翌朝、午前五時。素羽は司野に揺り起こされた。「起きろ。いいものを見せてやる」司野の言う「いいもの」など、素羽には欠片ほどの興味もない。だが、一度決めたことを彼が覆すことはない。司野は素羽に服を着せ、身支度を整えさせると、そのまま車を走らせ、ホテルを後にした。車は山頂へと続く道を進み、空が白み始めた頃に到着する。ドアを開け、司野は手を差し出した。「降りろ」素羽はその手を一瞥したが、触れることはなく、自ら車を降りた。山頂には強い風が吹いていた。司野は用意していた薄手
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