素羽は幼稚園へ駆けつけた。先生と素羽の表情は、どちらも険しかった。前者は怯え、後者は怒りに満ちている。幼稚園という場所では、子どもを帰す際、必ず保護者本人に直接引き渡さなければならない。それなのに、園側の手元で子どもに何かあったとなれば、素羽が激怒するのも当然だった。先生は申し訳なさと不安を抱えていたが、それ以上に責任を問われることを恐れていた。「誠矢くんを迎えに来た方は、素羽さんのお友達だと言っていました。お二人の写真も見せてくれたんです。素羽さんにもお電話したのですが、出られなくて……」言い訳を重ねるほど、先生の声は小さくなっていった。どう取り繕おうとしても、落ち度があるのは幼稚園側なのだ。それでも素羽は冷静さを保っていた。「相手は男ですか、女ですか。どんな見た目でしたか。監視カメラの映像を見せてください」内心では焦りでどうにかなりそうだった。それでも、今は何より問題を解決することが先だ。「男の人です」先生は、自分が知っていることを隠さず、すべて素羽に打ち明けた。相手の並外れたオーラや、裕福そうな身なりを見て、警戒を解いてしまった。それが間違いだったのだ。監視カメラの映像を確認した素羽は、誠矢を連れ去ったのが誰なのか、すぐに悟った。素羽はギリッと奥歯を噛み締めた。――司野!司野は、素羽が監視カメラを調べることを予見していたかのように、立ち去る直前、正門のカメラへ視線を向けていた。その微かに動く唇から、彼女には彼の言葉が読み取れる気がした。「待っているぞ」素羽の瞳の奥には、冷ややかな怒りが渦巻いていた。素羽は映像のコピーを受け取ると、そのまま真っ直ぐ警察へ向かった。権力も後ろ盾もない人間が通報したところで、たいていは適当にあしらわれて終わる。しかし、今の素羽は名もなき一般市民ではない。誠矢もまた、普通の家庭の子どもではなかった。確たる証拠がある以上、警察も決して見て見ぬふりなどできない。その頃、景苑の屋敷では――森山は、旦那様が連れ帰ってきた子どもを見て、ただただ呆気に取られていた。まさか、旦那様が外で作った隠し子なのだろうか。もしそうでないのなら、どうして旦那様はこの子にここまで優しくするのだろう。森山から見れば、司野は決して心優しく、忍耐強い人間ではない。「
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