──立ち入り禁止ほど踏み入りたくなる。開かぬ鍵こそこじ開けてみたい。 そう。だって〝冒険に危険はツキモノ〟から……。 だが今まさに、ネクター・エヴァレットは、その言葉を信じたことを心の底から後悔していた。 天井から崩れ落ちる岩石が、轟音とともに彼女の背後を凄まじい勢いで追いかけてきていたのだ。(立ち止まったら、死ぬ──!) 呼吸は乱れ、心臓は今にも破れそうなほど激しく脈打っていた。必死に走っても、前方に出口の光は見えない。 彼女がこの地底洞窟へやって来たのは、ただの探検目的だった。 祖父の遺した冒険手帳に記された謎──〝五百年の孤独〟とやらを、この目で確かめたくて。 ネクターはちらりと後ろを振り返る。 だがその行為を、すぐに後悔した。 崩れ落ちてくる岩だけではない。 それに引き連れられるように、〝人のような何か〟が迫ってきていたのだ。 人のような何か──。 そう呼ぶのは、人間と断定できない理由があった。 暗闇の中、その存在は赤く光る双眸をぎらつかせていたのだ。その色はまるで、警告ランプのそれのよう。 見たところ、自分とそう変わらない年頃か、或いはやや年下に見える。 十七歳か、それ以下。体格は小柄で、顔にはまだ幼さが残っていた。 ──けれど、それは決して純粋な子どもが持つ無垢な幼さではない。 むしろ、カエルの口に爆竹でも突っ込みそうな──そんな狡猾で残酷な性質を孕んでいそうな稚さだった。 その顔立ちは、整ってはいる。だが三白眼気味の吊り上げった瞳のせいでどうにもこの印象を際立たせていた。 見た目だけなら、どう見てもただの人間だ。ただ、悪人顔というだけで──。 その〝何か〟と、視線がカチリと交差した瞬間、ネクターは慌てて前を向き直した。顔は青ざめ、心は凍りつく。 轟音の中、背後からその存在の掠れた叫び声が追いかけてくる。 何かを必死に訴えているようだが、異国の言葉のせいで、まったく理解できなかった。(──っ! どうして、どうして、こんなことになっちゃったの!) 思えば、全ては自分の所為だ。 ネクターの脳裏には、走馬灯のように、たった十七年の短すぎる人生が浮かび上がっていた。
ปรับปรุงล่าสุด : 2025-08-14 อ่านเพิ่มเติม