「落ち着きなさい」──叔母にそう告げられても、ネクターの心は混乱の渦に飲み込まれていた。 レックスのことを口に出した瞬間、瞼の縁に熱い涙が滲み、視界が揺れた。泣いても何も変わらない。分かっているのに、感情が理性を追い越してしまう。 ……でも、叔母の言う通りだ。一から話さないと、何も伝わらない。 逃げたりごまかしたりしても、何も解決しないんだ。 ネクターは涙で濡れた頬を指で拭い、スコットの碧い瞳を真っ直ぐに見つめた。「スコット、お願いがあるの。驚かないで、全部聞いて欲しい。貴方、レックスと友達になりたいって言ってくれたよね? それは本心だよね?」 縋るような問いかけに、スコットは目を大きく見開いたまま、すぐに力強く頷いた。「ああ、勿論だ」 その短い一言が、胸にじんわりと沁みた。震える声を落ち着けるように、ネクターはは深呼吸して続けた。「なら、私、貴方を信じる。……私たちの秘密、共有してくれる?」 スコットは深く頷き、真剣な眼差しを向けた。その真っ直ぐな瞳に勇気をもらい、ネクターは工具ポーチから祖父の手帳を取り出した。 使い込まれた革の表紙に触れる指先が、ほんの少し震える。「これは祖父が遺した記録。……私がレックスと出会ったのは、南西部ホワグラスの地底洞窟。この手帳に書かれているのは『五百年の孤独』──それがレックスの正体。彼は遠い昔、イフェメラ軍が隠した古代兵器。元は人間で、今でいうツァールの人よ。神様から不思議な力を授かった、特別な存在だったみたい」 祖父の癖のない綺麗な字を指でなぞりながら、ネクターは言葉を続けた。「昨晩、レックスの知り合いだというツァールの神様の遣いが現れたの。彼の力は、もともとその神様を支えるためのものだった。でも、今の世界には不要だとされて、使徒はその力を回収しに来たの」 昨夜、使徒ファオルから聞かされたことを、ネクターはありのままに話した。 ──レックスは人間に人為的な処置を施され、兵器として作られた存在であること。今も生者として心臓を動かしていること。でも、その力を強引に引き剥がせば、
Last Updated : 2025-10-11 Read more