叔母にレックスの存在が知られてから、どれほどの日が過ぎただろう。 思いのほか同居生活は平穏で、驚くほど平凡に、日々は緩やかに流れていった。 気がつけば、季節は六月。街には初夏の匂いが漂っている。 ネクターが彼を弟子に迎えてから、最も意外に感じたのは――その働きぶりだった。 古代兵器とはいえ、彼は驚くほど真面目で、与えられた仕事には一切の文句も言わず、素直に従った。 「どーせ暇を持て余してんだし、それが条件だろ? こんくらいはさもねぇ」 そう軽口を叩く様子から、根は案外真面目なのかもしれないとネクターは思った。 しかし、その真面目さの裏にある理由は、もっと単純だった。 ――叔母ドリスに怒られるのが、何よりも怖いのだ。 その証拠に、ドリスが名を呼ぶだけで、レックスの肩は小動物のように跳ね上がる。 背丈が低いせいもあって、立派な名前に反して、まるで子ウサギのようにも見える。 ネクターは、彼が初めて叔母と対面した日のことを思い返す。 あんなに憤慨したドリスを見たのは、おそらく生まれて初めてだった。(古代兵器を怯えさせるなんて……やっぱりドリス叔母さん、最強かもしれない) 自分とレックスの間には、主従に似た関係があるとネクターは思っている。 それを、叱責ひとつで上書きできる存在など、そうそういるはずがない。 そんなことを考えると、余計に彼が人間らしく見えて、自然と口元が緩んでしまう。 ピンセットで真鍮の小さな部品を摘まみ、在庫を数えている最中にも、ふつふつと笑いが込み上げてくる。 つい吹き出してしまったその瞬間、横から脇腹をつねられ、ネクターは短く悲鳴をあげた。「何を一人で笑ってるのさ、おかしな子だね」 隣で帳簿をつけていた叔母が、呆れた目でこちらを睨んでいる。「ちょっとね、大したことじゃないわ」 本当の理由を説明するのは、どうにも照れくさい。適当な言葉でごまかすと、ドリスは鼻を鳴らした。「そうかい。あんたはただでさえ変な娘なん
最終更新日 : 2025-09-13 続きを読む