そう言うと、逸平はホテルに戻り、杏奈と行人を残した。行人は杏奈の前に立ちはだかって言った。「杏奈さん、どうぞこちらへ」杏奈は逸平の遠ざかる後ろ姿を見て、腹立たしげに行人を睨んだ。「いいわ、自分で帰る!」行人は軽く眉を上げ、心の中はそう思った。それならなおさらいい。……裕章も予想していなかった。権野城市に戻ったかと思うと、逸平はすぐ追いついてきた。薄暗い個室で、逸平はすでに半分酔っ払っていた。「逸平」裕章は逸平がまた酒を一本開けようとする手を止めた。「もういいだろう」逸平は裕章を見て、その手を払いのけ、また一本開けた。「鹿島社長を呼んだのは酒を飲むためです。一口も飲まないとはどういうつもりですか?」逸平は一口飲み干し、ふっと笑った。「そうですね、鹿島社長には娘がいますから。確かに、酒を飲んではいけません、子供に知られたらまずいです」裕章は眉をひそめた。逸平のこの状態は、明らかにおかしかった。「どうしたんだ?」一言も言わずに権野城市に来て、到着して一番最初にしたのは裕章を呼び出して酒を飲むことだった。それに、逸平と裕章の間柄は、まだそこまで酔い潰れるほど親密ではなかったはずだ。逸平はロックグラスの縁を指でなぞりながら、裕章を見た。その目は静かで、まるで裕章を通して何かを見ようとしているようだ。「なぜ葉月はお前たちにはあんなに優しいのに、俺にだけは……」まるで逸平だけが永遠に葉月の目に入らないかのようだ。裕章は何かをわかったようで、わざと口にした。「葉ちゃんのこと?」「そう呼ばないで」距離感が近すぎる、あまりにも近すぎる。逸平自身も長い間そう呼べていなかった。裕章は軽く笑った、やはりか。「じゃ、俺を呼んで、ここで酒を飲んでどうしたい?」こんなふうにしているより、葉月の機嫌をとる方法を考えた方がましだった。逸平は笑った。「なんですか?鹿島社長に付き合っていただけませんか?」裕章はかなり面子を立てあげた。ロックグラスを取って自分にも一杯注いだ。裕章はロックグラスを掲げ、逸平に向かって眉を上げた。「井上社長」逸平は唇を緩め、杯に残った酒を一気に飲み干した。逸平は結局泥酔して意識を失った。裕章は逸平を見て頭が痛くなった。酔ってソファに倒れ込んだ逸平を見て、どうし
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