しかし葉月はそれを大した問題ではないと思った。葉月は玄関に立ち、室内の温かな設えをぼんやりと眺めていた。「寝室は南向きで、バスルーム付がついてる。少し狭いかもしれないけれど、暫くの間だし我慢してくれ」逸平は彼女のスーツケースを運びながら、落ち着いた声で言った。「とりあえず休んでくれ、片付けは俺がするから」葉月は逸平の話を聞いて、とても大袈裟に感じた。この家は一の松市の住まいには及ばないが、決して「我慢する」ほどではない。葉月の目の前の床には新しく買われた女性用のスリッパが置かれており、逸平が履いているものとペアになっていた。柔らかな起毛地に同じ模様が刺繍されていて、葉月の方には小さなリボンがついていた。葉月はそのスリッパをしばらく見つめてから、しゃがんで履き替えた。サイズはちょうどぴったりだった。葉月がリビングに入ると、室内は暖かく、エアコンがついているようだった。部屋を見回すと、ベージュのソファに薄灰色のカーペットが敷かれていた。窓の外には小さなバルコニーがあり、緑の植物がそよ風に揺れ、食卓には新鮮な百合が飾られていた。部屋全体が清潔で明るく、隅々まで手入れが行き届いている様子がうかがえた。すべてが、あの質素なホテルとは対照的だった。逸平は荷物を置くと、すぐにキッチンに向かって作業に取り掛かった。注文したばかりのウォーターサーバーがまだ届いていないので、逸平はまずキッチンで水を加熱した。逸平は上着を脱ぎ、シャツ一枚になった。キッチンの窓から差し込む陽光が逸平の肩で躍り、白いシャツを透かし、引き締まった背中のラインをかすかに浮かび上がらせた。葉月はキッチンの入り口でしばらく見ていたが、視線をそらし、ソファに座りに行った。間もなく、逸平が水の入ったグラスを持ってきた。「水を飲んで」逸平はグラスを葉月に渡した。カップから伝わる温度は熱くも冷たくもなく、ちょうど彼女が好む温かさだった。「ありがとう」葉月はグラスを受け取り、無意識に手の中で回した。逸平も葉月の隣に座ったが、近づきすぎず、一人分の距離を保ちながら、普段通りの口調で言った。「何か足りないものがないか確認してみてくれ。手配するから」葉月は小さく水を啜りながら、逸平を横目で見た。「こんなに手間をかけなくても」葉月は小声で言った。「長
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