葉月は今、逸平とこんな話をする気分ではなかった。葉月はまだ心配している。さっき見たように、逸平の車はもうあんなにぶつかってしまった。「あなた、本当にどこでも怪我してないの?」葉月は上から下まで逸平をくまなく見た。もしこれが大通りでなければ、絶対服を脱がせて、服に隠れた体に傷がないか確かめたいところだ。逸平は笑って首を振った。「ないよ」逸平が頭を動かすと、葉月は逸平の耳元の血痕に気づいた。「動かないで!」葉月は逸平の顔を押さえ、血のついた部分をよく見たら、それはかすり傷だとわかった。傷は深くなさそうで、葉月はやっと少し安心した。逸平は静かに葉月を見つめ、自分を心配する様子を見て、心が温かくなった。どうやら葉月の心の中では、自分もまったく地位がないわけではないらしい。葉月は今、逸平の心の中のこうした複雑な思いや、ごちゃごちゃした考えに構っている余裕などなかった。葉月の頭の中には、逸平を病院に連れて行って、再検査させないと、という考えでいっぱいだった。そうしなければ安心できなかった。「病院へ、今すぐ病院へ」葉月は逸平の手首をつかんで、少し離れた場所に停めてある自分の車へと引っ張っていった。逸平は葉月に引っ張られたまま、まるで力がないかのように、軽く引かれるだけで動いた。葉月が車を運転して病院へ向かう間、ずっと沈黙が続いた。その間、逸平は行人に電話をかけ、保険会社に連絡してこの件の後処理をさせるようと伝えた。病院に着くと、医者は逸平に詳細な検査を行った。外から内まで、必要な検査はすべて行い、必要な画像もすべて撮影した。結果が出ると、医者は言った。「大きな問題はありません。おそらく胸部が圧迫されたため不快感が感じるのでしょう。軽い外傷がありますが、生活に影響はありません。数日休めば治ります」それを聞き、葉月は息を吐き出し、「ありがとうございます、先生」と医者に言った。「どういたしまして。お大事になさってください」葉月は診断書を持って外へ出ると、逸平が後についてきた。二歩も歩かないうちに、葉月のスマホが鳴った。向こうからは正雄の心配そうで焦った声が聞こえてきた。「葉月、今どこにいるんだ?」葉月は両親を心配させたくなくて、何があったかも言えず、ましてや病院にいることなど言えるはずもなく
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