則枝のアパートは買い物袋で溢れかえっていた。ピンクやブルーのベビー服、ぬいぐるみ、小さな哺乳瓶がソファに散らばり、テーブルには妊娠ガイドブックが数冊置かれていた。彼女は鼻歌を歌いながら、クマのプリントが入ったベビー服を丁寧にたたみ、ギフトボックスに収めていた。顔には抑えきれない笑みが浮かんでいた。葉月の妊娠を、則枝は心から喜んでいた。産むことを選んだ以上、その子を精一杯愛してやろうと思った。「赤ちゃんの性別がわかったら、また買い足そう」可愛い女の子だと嬉しいけれど、ハンサムな男の子でも悪くない、と則枝は密かに思っていた。独り言のように呟くと、またガラガラを手に取り軽く振った。澄んだ音に思わず笑みがこぼれた。その時、不意にインターホンが鳴った。則枝は眉をひそめ、手にしていた物を置いてドアに向かった。しかし、ドアの外に立つ人物を見た瞬間、彼女の笑顔は凍りついた。そこに立っていたのは太一だ。前回病院で会って以来、太一とは会っていなかった。彼女は反射的にドアを閉めようとしたが、彼に腕で押さえこまれた。「則枝、そこまでして俺を中に入れたくないのかよ?」則枝はまだドアを閉めようとしながら言った。「私たちはもう別れたんだから、あなたはここに来るべきじゃないでしょ」太一は鼻で笑うと、則枝の肩越しに室内を鋭い目で睨んだ。「家に男でも隠してるのか?」「何言ってるの?」則枝は本当に太一の気が狂ったのかと思った。「じゃあ、なぜ入れてくれないんだよ?」則枝はむっとした。「さっき言ったでしょ?私たちはもう終わったのよ!」太一はさらに鋭い目をして、力任せにドアを押し開け中に入ってきた。則枝は止めようとしたが止められなかった。太一はリビング無防備に置かれているベビー用品に目を留めた。「これは何だ?」彼の声は不気味なほど低かった。則枝は一瞬心臓が止まりそうになった。来るタイミングが最悪だと思った。それでも平静を装って言い返した。「あなたには関係ないでしょ?私たちはもう別れたんだから、出てって。許可なく人の家に入ったのだから、警察を呼ぶわよ!」太一は彼女の言葉を無視し、ソファの上のベビー服を手に取ると、指の関節が白くなるほど強く握りしめた。「則枝、正直に言え。お前、妊娠してるのか?」「何言ってるの!」則枝の耳が
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