葉月はドアベルが鳴るまで、しばらく呆然と部屋で座っていた。ホテルのスタッフが服を届けに来たのだ。葉月は着替えて出てくると、手にはピンクダイヤのネックレスを提げている。最後にもう一度見つめると、葉月はそのネックレスをスイートルームのリビングテーブルに置いた。どんなに高価なものでも、偽りの感情がそこに混ざれば、ただ安っぽく見えるだけだ。葉月は逸平が戻るのを待つつもりもなく、一人でホテルを出た。夜風がそよぎ、呼吸は驚くほど楽になり、広々とした空き地に立つと、胸全体がすっきりとした。葉月は一人で歩きたい。道路沿いを歩きながら、暖かい暖色の光が地面を照らし、葉月は自分の影を見つめていると、頭が一瞬真っ白になった。本当につまらないわ。逸平のせいで、自分の生活はもうめちゃくちゃだわ。「葉月?」どこかためらいの混じった男の声が、不意に背後から響いた。聞き覚えのある声だった。葉月はハッとして顔を上げ、その声の主の方へ振り返った。「裕章さん」葉月はびっくりした。裕章がなぜ一の松市を離れたか、葉月はよく知っていた。裕章にとって、一の松市はすべての苦痛の源であり、戻りたくもない場所だ。裕章は葉月を見て、間違いないと確信すると、自然でゆったりとした笑顔になった。「やっぱり君だったのか」葉月の目はきらきらと輝いている。裕章に会えて嬉しい。清原家と鹿島家は旧知の仲で、裕章は穏やかで忍耐強い性格の持ち主だ。葉月より数歳年上で、小さい頃からよく葉月の面倒を見ていた。裕章は車のドアを開けて降りてきた。さっき遠くから葉月の姿を見かけたが、確信が持てなかった。逸平がさっきまで葉月がホテルにいると言っていたからだ。しかし考えた末、自分の目で確かめてみようと、車をバックさせて戻ってきた。「どうして一人でここにいるの?逸平は?」葉月の表情は少し不自然で、旧友に会ってすぐに自分の不幸な結婚生活を知られるのをためらっているようだ。裕章はほんの一瞬だけ考え、事情を察すると、それ以上は尋ねなかった。「どこに行くの?送っていくよ」葉月は手を振って、「大丈夫です、前の方まで歩いてタクシーを拾いますから」と返事した。裕章は軽く笑い、手を伸ばして葉月の頭を撫でた。普段娘の和佳奈に接する時とよく似た仕草だ。「私に遠慮する必要はない
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