All Chapters of 去りゆく後 狂おしき涙 : Chapter 211 - Chapter 220

手術室のドアはずっと固く閉ざされ、中の灯りは白昼のように明るかった。隆之は、ビジネスの世界で辣腕を振るい、あれほどの風雨を経験してきた男でありながら、今この瞬間は迷子の子供のように、外の長椅子に座り、震える手で絶えず祈っていた。時間は一分、また一分と過ぎていき、空はもうすぐ明るくなろうとしているのに、手術室の灯りはまだ消えていなかった。アシスタントの剛士は、彼が持ちこたえられないのではないかと心配し、水を持ってきて渡すと、ため息をついた。「社長、あまりご心配なさらないでください。もしかしたら、紗季様はもうすぐ出ていらっしゃるかもしれません」隆之はどこか苦しげに目を閉じた。「医者も専門家も、もう事前に俺に言っていたんだ。手術の時間が短ければ短いほど、成功率が高いということだと。今、彼女からは何の音沙汰もない。彼女が今、無事だと信じることなどできない。俺の言っている意味が分かるか？」剛士はどこか仕方ないといった様子だったが、どうすれば彼の気分を少しでも良くできるのか、分からなかった。彼もまた、ひどく心配していた。このようなことは、自分が良い方向へ考えようとしたからといって、必ずしも良い方向へ進むとは限らない。自分たちは今、医師の腕を信じる以外に、できることはただ運命に任せることだけだった。手術がいったい成功するのかどうか、誰にも分からなかった。剛士が途方に暮れていると、手術室の灯りが不意に消えた。隆之ははっと気を取り直し、すぐに駆け寄り、緊張した面持ちで医師を見つめた。数人の専門家は医療用マスクを着けており、表情ははっきりと見えなかった。彼らがマスクを外した時、皆、思わずため息をついた。彼らのため息をつくその様子と仕草が、隆之にますます悪い予感を抱かせた。彼はごくりと唾を飲み込み、恐る恐る言った。「どうだった？お前たち、顔色がどうしてそんなに悪いんだ？いったいどうなったのか、教えてくれ。妹は、彼女は大丈夫なのか？」専門家はマスクを外し、彼に一言告げた。そして、それを聞き終えた後、隆之の体から力が抜け、床に崩れ落ちた…………三日後。国内。執事の玲は足早に歩み寄り、険しい顔をした翔太を見て、ため息をついて首を振った。翔太は信じられないといった様子だった。「どうしてだ。彼は

玲が口を挟んだ。「理屈から言えば、株はすべてお兄様にお渡しになるはずです。どうして誰かが奪おうとするのですか？」「彼らの両親の遺言によれば、株は二分割され、どちらかが不測の事態に見舞われた場合、会社のエリート幹部や、会社に功績のあった者が株を得ることができる。今、彼らは皆、株を巡って争っており、隆之はもう頭を抱えている！」翔太は切迫した口調で、隼人の反応を固唾を飲んで見守った。その言葉を聞き終えると、隼人ははっと拳を握りしめ、その眼差しは氷のように冷たくなった。彼は呟いた。「紗季の株は、たとえ譲渡されるとしても、彼女の兄にしか渡せないはずだ。誰であろうと、彼女のものを手に入れようと妄想する資格はない」「そうだろ！」彼が今この瞬間、まるで別人のように奮起したのを見て、翔太は心の中で喜んだ。「紗季の兄を助けられる人間は、誰もいない。今、唯一助けられるのは、お前だけじゃないか？」隼人は乱暴に顔を拭い、頷いた。彼の眼差しは固く、待ちきれない様子だった。「そうだ！俺は彼女の兄を守り、彼の面倒事を解決してやる。紗季の株を守り、下心のある連中に奪わせはしない。チケットを買え。俺はすぐに出国する！」翔太は彼のその待ちきれない、取り憑かれたような様子を見て、心の中で心配しながらも、どうすればいいか分からなかった。「なら、お前は海外へ行って、どうするつもりか準備はできているのか？」「この株を奪おうとしている連中とは、全員会わなければならない。どんな方法を使おうと、奴らに株を諦めさせなければならない！」それは、紗季の兄の手に渡るべきなのだ！隼人の全身から、一瞬にして力がみなぎった。三日間かけて、ようやく紗季が永遠に去ったことを受け入れた。悲しみに打ちひしがれ、紗季が自分に機会を与えなかったことを恨み、さらに、自分がしたことによって紗季がすべての希望を失ったのだと、罪悪感と自責の念に苛まれた。どうして、自分に機会が与えられる資格などあるだろうか？これらの考えが、繰り返し隼人を苦しめ、彼を冷静でいさせなかった。しかし今、自分はようやく紗季のために何かをすることができる。できるだけ早く、それを実行しなければならない！翔太はようやく安堵のため息をつき、階下へ降りて電話をかけ、隼人のためにチケットを手配するよう

剛士は息を呑み、隆之の陰鬱な顔色を見ると、やはり戸惑って眉をひそめた。「いったい何をするつもりですか？、お嬢様の葬儀は三日前に執り行われたのに。まだうちの会社のことに口出しして、何をしたいんですか？」隆之の表情がわずかに変わり、目を細め、冷たい声で言った。「奴を連れてこい」スタッフは慌てて外へ出て、人を連れて行った。まもなく、オフィスのドアが再び開かれた。隆之はデスクの前に座り、入口へ顔を向けた。隼人が入ってくるのを見た時、彼は思わず固まった。剛士もまた驚愕した。まさか、わずか三日間会わないうちに、隼人がまるで別人のように変わってしまうとは。その眼差しは陰鬱で、顔は痩せこけ、全身がまるで大病から回復したばかりのような状態だった。全く生気がなかった。彼は皮肉だと感じた。かつては堂々たる黒川グループの社長にも、これほど憔悴する時があったとは。「ここに何をしに来た？」隆之は隼人を睨みつけ、その瞳の奥には人を射抜くような冷たい光が満ちていた。隼人の呼吸は苦しげで、彼から三メートル離れた場所に立ち、低いかすれた声で言った。「会社のことで、少し問題が起きたと聞いた。手伝いに来た」「手伝いにだと？」隆之は立ち上がり、冷ややかに問い詰めた。「俺の会社が、お前と関係あるのか？お前に手伝ってもらう筋合いがあると？」「だが、奴らは紗季の株を欲しがっている。紗季は俺の妻だ。彼女の株を……」「黙れ！」隆之ははっと激怒し、駆け寄ると隼人の襟首を掴み、彼を壁に強く叩きつけ、手を上げて殴ろうとした。剛士は慌てて彼を引き止めた。「社長、ちゃんと話してください。彼のこの様子は、ひどく弱っています。殴って、何かあっては！」しかし隼人は、瞬きさえしなかった。「俺は大丈夫だ。耐えられる。殴りたいなら殴ればいい」隆之はきつく奥歯を噛み締め、殴りたい衝動を必死にこらえ、拳を隼人の顔面に突きつけた。「言っておく。お前にはもう、紗季の名を口にする資格はない。お前は三浦美琴と籍を入れた事実を隠し、偽の結婚証明書で彼女を騙して一緒に暮らし、お前の息子を産ませ、家で彼女を無料の家政婦に扱った。そして、紗季は最後にはお前のせいで死んだんだ。お前に、彼女が自分の妻だと言う資格がどこにある！」隼人は唇を固く結び、

隼人の両目は赤く充血し、必死に歯を食いしばって、ようやく胸に込み上げてくる酸っぱい悲しみをこらえた。彼は顔を上げて隆之を見つめ、小声で言った。「紗季の物を、一つだけでいい。何でも構わない」隆之は彼を見下ろし、その瞳には冷淡さが漂っていた。彼はふんと鼻を鳴らした。「俺の妹の物を、形見として残したいと？」隼人は頷いた。「ありえない」隆之はまくり上げていた袖を下ろし、背を向けた。「妹の物をお前にくれてやるくらいなら、むしろ殴るのをやめてやる。彼女は去る前に、はっきりと伝えていた。この人生で、二度とお前とは何の関係も持たない、と。たとえ彼女の髪の毛一本であろうと、俺はお前にはやらん。分かったか？」その口調は静かで冷たく、交渉の余地はなかった。隼人は立ち上がり、拳を握りしめた。「どうしてだ？俺には、彼女を偲ぶ資格さえないというのか？」「ない！忘れたのか、彼女が今のこの結末を迎えたのは、誰のせいか！お前こそが、二度と彼女に近づき、彼女の物に触れるのに一番失格している人間だ！」隆之の口調は彼よりもさらに重く、オフィスのドアを指差した。「出て行け！俺の会社のことは、俺自身が処理する。お前に余計な世話を焼かれる筋合いはない。失せろ！」隼人は唇を固く結び、何も言わなかった。その陰鬱に満ちた両目には、一筋の光も差し込まなかった。彼は目を閉じ、頷いた。「わかった」隼人は深く息を吸った。「わかった。お前の言いたいことは分かった」彼は背を向け、衆人の眼差しの中、オフィスを後にした。彼がそのまま去っていくのを見て、剛士はまだ状況を飲み込めずにいた。彼は眉をひそめて隣の隆之を見た。ためらいがちに言った。「彼は本当に、このまま素直に立ち去るのでしょうか？何か別の企みがあるのでは？」「奴はもう、面倒事を起こさないだろう」隆之はゆっくりと振り返り、デスクの前に座って物思いにふけった。彼が思い悩んでいるのを見て、剛士はすぐに手を振ってボディガードたちにここを去るよう指示した。皆いなくなった後、剛士はようやく歩み寄り、隆之の前に来て、小声で言った。「社長、彼が、実はお嬢様がもう……と気づくことは……」「黙れ！」隆之は彼の言葉を遮り、顔を上げ、彼を睨みつけてはっきりと言った。「そ

隼人は後ずさり、写真を固く握りしめて手放そうとしなかった。彼が自分の脅しを恐れていないのを見て、佐伯は冷たい顔で、すぐにスマホを取り出して電話をかけた。不意に、隼人は背を向けて窓を押し開けると、そのまま身を躍らせた！「あっ、あなた、何を……」佐伯が駆け寄ると、隼人がすでにしっかりと着地し、片手を地面について、全然無事の様子のを見た。隼人は立ち上がり、掌の泥を払い、写真立てを手に振り返って佐伯に振って見せると、大股で足早に立ち去った。その後ろ姿を見て、佐伯は怒りで歯ぎしりし、すぐに隆之に電話をかけて報告した。隼人がまた同じ手口で窓から侵入したと聞いて、隆之は仕事も放り出し、すぐに警備チーム全員を引き連れてやって来た。チーム全員が入口を見張り、ドアと窓を固く閉ざした。隼人が二度と窓から侵入する機会がないようにするためだ。隆之は紗季の部屋に入り、眉をひそめてあたりを見回した。佐伯は彼が怒るのを恐れ、すぐに説明した。「彼はただ写真一枚を持ち去っただけです。お嬢様がずっとテーブルの上に飾っておられたあの写真です。他の物には一切触れていません。私がすでに確認いたしました」「ああ、分かった」隆之は目を細め、冷ややかに言った。「お前は先に外へ出ろ。俺はここで少し一人でいる」佐伯はそっとため息をつき、隆之が物を見て妹を偲んでいるのだと悟ると、背を向けて立ち去り、彼のために部屋のドアを閉めた。部屋のドアは固く閉ざされた。隆之は振り返ってベッドのそばに腰を下ろし、しばらくして、目を細めてテーブルの上のパソコンを睨みつけると、すぐに歩み寄ってパソコンを開き、パスワードを入力した。パソコンのロックが解除されると、画面にはまだ閉じられていなかったチャットのインターフェースが表示されていた。そこには、三十分前にフレイナから送られてきたチャットメッセージが、既読スルーになっていることが表示されていた。隆之の顔色が一変し、慌ててスマホを取り出して電話をかけた。……外。隼人は依然として立ち去らず、別荘の近くのホテルを探してチェックインした。翔太から電話があり、彼がすでにホテルに滞在しており、しかも一気に三日分も部屋を延長したと知って、少し驚いた。「お前、隆之がお前に会社のことに口出しするなと言って、