* * * 着替えを終えたカイジールは真珠島の浜辺へ降り立ち、少女の姿を探す。「おーい」 「あ、慈流! 神殿の用事は終わったの?」 道花は海水を吸い込んだ長くて太いみつあみをきつく絞りながら、カイジールの元へ寄る。「今日もお仕事お疲れ」 「ありがと。参っちゃう、結界を張る根の一部が腐っていたみたいで。今日は朝からずっと潜りっぱなしよ」 身体がふやけちゃうわと笑いながら道花は真顔に戻り、カイジールに尋ねる。「涼鳴さん、何か言ってた?」 「色々。キミのことばっか心配してた」 「だって慈流は心配しなくてもしっかりしているから大丈夫じゃん」 「そういう問題かよ」 ぷいと顔を背けるカイジールに、道花はだって本当のことじゃんと拗ねたように言葉をつづける。「それに、カイジールなら女王にそっくりだから、かの国の人間を騙すのなんて簡単だよ」 「まったく、キミはほんと気楽でいいねぇ」 本当なら女王陛下の娘だというのに、この容姿から存在を否定され、市井へ棄てられてしまった道花。神殿では類稀なる『海』のちからを持つことから珊瑚蓮の精霊などと呼ばれているが、カイジールからすれば、どこにでもいる女の子だ。 人魚の一族の一員であるカイジールと違い、女王オリヴィエと人間の間に生まれた道花は自分の出生を殆ど知らずにいる。だが、自分が生まれながらに持つ『海』の加護から、半分だけ人魚の血を引いたあいのこだということには気づいているようだ。それでも本人はたいして気にしていない。 むしろオリヴィエの義弟であるカイジールの方が、生い立ちは複雑だ。けれど、道花と一緒にいると、不思議とそんなことはどうでもよくなってくる。 ナターシャ神の御遣いとして神殿に仕えるリョーメイに育てられた道花は、神殿で自分の加護を学んでいる際にナターシャやカイジールと出逢った。血が繋がっていないとはいえ、道花が棄てられたオリヴィエの娘だと知った時のカイジールの驚きは大きかった。種族は違っても、道花はカイジールの姪になる。とはいえ、オリヴィエとの年
Last Updated : 2025-08-23 Read more