* * * 意識を失ったのはほんの一瞬のことだったらしい。右も左もわからない誰もいない暗闇に、道花はひとりぼっちになったような錯覚を覚える。「……あれ、あたし」 何か大切なことを忘れてしまったような気がする。自分はこれからなさねばならないことがあったはずなのに、どうしてだろう、もうそんなことどうでもいいではないかと投げやりな気持ちになっている。 すべてを無にしたら楽になれるだろうか。そう思ったことは一度や二度ではない。けれど根が楽観的な道花はそうなるための苦しみを想像するのが厭で、結局生きることを選びつづけた。母親に生命を狙われつづけていたと知らされたいまだって…… こんなところでじっとしてなどいられない、早く彼と合流しなくちゃ!「彼って誰だっけ?」 こめかみがずきずきする。時折走るこの痛みはなんだろう、また女王が呪詛でもしかけたのだろうか。けれど、浄化をしようにも原因がわからないから、いまの道花にはどうすることもできない。 ふと、視界が拡がり、道花の前におおきな火柱が立つ。これは、どこだろう。まさか、帝都……? また、ズキリと頭が痛む。考えることをやめさせようとする頭痛に、道花は顔を顰めたまま、火柱を睨みつける。神皇帝と対立する何者かが帝都に火をつけたのだろうか。それともこれは道花に見せている幻覚か……「って、現実だろうが幻覚だろうがどっちでも消さなきゃダメでしょ」 見過ごすなんて許されることではない。道花を焦らせるための幻覚であったとしても、彼女はそれを止めさせるために動くことをやめられない。 頭痛を無視して神謡を紡ぐ。暗闇に銀色の閃光が迸る。悪しきものをすべて浄化する珊瑚蓮の精霊のちから。道花はうたうように詠唱しながら火柱を睨みつける。 けれどその先に、紫の衣をまとった少年がいる。道花の行為をやめさせようと必死になって、こっちに向かっている。どうして?「っ!」 焼けるような痛みが全身を貫く。悪しきモノを滅ぼす閃光が、自分を敵だとみなしている。なぜ? 道花は短い悲鳴をあげ、その場へ突っ伏す。まるで透明な壁に遮られているみたい。 それよりも自分を攻撃した閃光に、道花は愕然としていた。着ていたものが焼失し、素っ裸の状態に陥ってしまったのだ。 暗闇のなかに浮かび上がる自らの裸体を確認し、ふるふる身体を震わせた道花は
Last Updated : 2025-11-03 Read more