「次から次へと……」 オーディンの声にわずかな苛立ちが混じっている。「そんなにも死にたいのならば、もう加減はなしだ。僅かながらも慈悲をかけてやろうとしたのが間違いだった。下らぬ茶番に付き合うほど、時間は無駄にはできぬ!」 真グングニルが鳴動する。共鳴したユグドラシルが、力を増幅させている。偽物を叩き折って二度と作れないよう、憎悪を燃やしている。(共鳴) けれどセティは気づいた。グングニルの材質は七割以上がユグドラシルと同じもの。 なぜ、ただの武器にそんな材料を使う必要がある? なにか理由があるはずだ。 セティはエリンの手を取った。エリンの精神感応《テレパシー》で考えを読んでもらう。こうすれば言葉よりもずっと早く正確に伝わるからだ。 ――エリン。グングニルとユグドラシルが共鳴してる。武器と塔、どうして共鳴させる必要があるんだろう。 ――もしかしたらグングニルは本来、武器ではないのかもしれない。ユグドラシルを制御するための道具なのかも。 ――あり得るよ! オーディンの体を二八・八パーセントも混ぜたのも、あいつがユグドラシルの管理者だからだ! ――それなら、対抗するべきは武器の威力ではなくて、ユグドラシルの乗っ取り? ――それだ! 俺、今から全力でユグドラシルの中枢を探す。見つけたら、エリンが介入して! ――分かった! これだけのやり取りを一秒に満たない間にやり遂げ、セティは透視《クレアボヤンス》を全開にした。 かつての彼の能力では、ユグドラシルの内部は全く視えなかった。 けれども今は違う。第三段階の偽物《レプリカ》の能力は、対象の構造解析を完璧に行った上で発現するもの。出力も精度も以前とは比べ物にならないほど上がっていた。 一瞬だけ遅れて、オーディンも二人の意図に気づいた。何も知らないはずの彼らが瞬時に本質を見抜いたと知って、オーディンの背筋に冷たいものが走る。 だが、アドバンテージがオーディンにあるのは揺らがない。彼女は長年ユグドラシルとアースガルドの王だった。構造は熟知している。
Last Updated : 2025-10-31 Read more