誰もが息を呑んで言葉を発せなかった。 薄暗い冬の森の中に、空白のような沈黙が長く続く。 ようやく口を開いたのは、エリンだった。「バナジスライト? シグルドさんは人間です。白獣じゃありません。それに『収穫』とは、何のことですか……?」「なんだ? 気づいていなかったのか」 ロキは意外そうに言った。「逆に聞くが、どうしてバナジスライトが獣だけのものだと思った? 獣だろうが人だろうが、ユミル・ウィルスに感染すれば、一定の確率で能力に目覚める。そうなれば脳にバナジスライトが蓄積される。人間はただ、獣よりも病の進行がゆっくりで、能力が強く育つだけ。 収穫も文字どおりだよ。頭蓋を割って脳からバナジスライトを取り出す。エインヘリヤルが白獣に対して行っているのと同じ行為だ」「そ、そんな……。じゃあ、アースガルドの召し上げは、つまり……」 ベルタがよろけて、ラーシュに支えられた。セティも顔色を蒼白にしている。 ロキは首をかしげて、それから合点がいったとばかりにうなずいた。「お前たちエインヘリヤルには、思考統制プログラムがかなり強く入っているな。『神の言葉』に疑問を抱かないように、たとえ余計なものを見聞きしても信じないように。オーディンめ、この星の人間を全く信用していないと見える。全く彼女は、いつまでも変わらない」「オーディン……は、何故、あの宝石を集めているんですか」 エリンは前に出て尋ねた。かねてからの疑問である。「バナジスライトは、生命エネルギーの結晶だ。ユミル・ウィルスを介して大気中のエーテルを吸収し、体内に蓄積する。あれは光を閉じ込める、天然のフォトニック結晶体でもある。 そこの透視能力者<クレアボヤンサー>が持っている程度の質では、補助的に使うのがせいぜいだが」 セティがぎくりと荷物を押さえた。白獣のバナジスライトがいくつも入っている小箱が、そこにある。 ロキは続ける。「人間の能力者であれば、第二段
Last Updated : 2025-10-03 Read more