洞窟は入り口こそ這って入らないといけないくらい狭かったが、中は案外広かった。奥まで行けば、小柄なエリンであれば立ち上がって歩くのもできる。 狼の白獣は、洞窟の奥の岩壁に背をつけて丸まっていた。 エリンが近づくと、少しの距離を開けた場所で身を起こし、低く唸った。それ以上は近づくなということらしい。「群に帰る方法はないかな」 エリンは問うたが、狼は沈黙するばかり。きっと彼が一番、帰る方法を知りたいだろう。「あなたのような病気の獣を狩る人間がいるの。私もその一人」 エリンが言うと、狼は警戒の眼差しで彼女を見た。「あなたは今まで、人間を食べたこと、ある?」 ――ナイ。 その答えを聞いて、エリンは心から安堵した。もしこの獣が既に人食いであったならば、見過ごすわけにはいかないからだ。「もし一人でも人間を食べてしまった、彼らは絶対にあなたを逃さない。もちろん、私も」 エリンの言葉に狼は警戒を強めた。「だから、約束して欲しい。これからも人間は食べないと。食べるのは今まで通り、野山の獣だけにすると……。 そうしたら、あなたに手出しはしないと、私も約束する」 人間を食べない限り、この獣は何としてでも助けてやろうとエリンは思った。 シグルドはもちろん、これから応援を頼む第八小隊のエインヘリヤルたちも説得しなければならない。かなりの困難を伴うだろうが、絶対にやり遂げようとエリンは決心した。 狼は考えあぐねているようだ。しばらくの間を置いて、思念が帰ってきた。 ――人間ナンテ、食ベタクナイ。「うん」 ――デモ、腹ガ空イタラ食ベルカモシレナイ。「…………」 意思は通じても、やはり価値観が違う。獣にしてみれば、空腹に耐えかねた時に目の前に獲物が現れたら、襲いかかって当たり前なのだろう。(どうしよう。私がこの子の面倒をみるわけにはいかない。群を追い出された狼が、たった一匹で生き
Last Updated : 2025-09-20 Read more