住宅街から少し離れた、築数十年は経過しているであろう木造の二階建てアパート。部屋数は六戸。 私は二階へと続く階段を登り、202号室のインターホンを鳴らした。<ピンポーン> インターホンの音だけが響き、中の住人の声は聞こえない。<トントントン> ノックをする。「居るんでしょ。開けて」 私がそう声をかけると、ゆっくりとドアが開いた。 「お疲れ様」 一言だけ発し、彼は部屋の中へ戻って行く。私は彼の後ろ姿を追った。 六畳一間のワンルームには似合わない大きなベッド。部屋の中は相変わらず物が散乱している。 汚い。 でも私には関係ないと割り切ることにしている。 私は「さぁ、始めましょう?」 平然を装い、彼に伝えた。 本当はドキドキしてるなんて口が裂けても言えない。 自分からブラウスのボタンを外し、その場にポスっとブラウスを置く。 次にスカートを脱いだ。「どうした?今日は積極的だな」 下着姿の私を嘲笑うかのように彼はフッと笑った。 ライトブラウンの少し長めの髪の毛、大きな瞳なのにどこか鋭い目、鼻筋はスーと通っている。いわゆる容姿端麗だ。 ベッドの上で胡坐をかいている彼に私は目を向ける。「勘違いしないで。早く終わらせたいだけだから」 そう伝え、彼に近づき、自分から唇を重ねた。 部屋の中にリップ音が響く。「んっ……」 舌を入れられて、思わず吐息が漏れてしまった。 どうしていつもこうなっちゃうんだろう。 この人に屈したくはないのに。 ベッドに押し倒され、キスされながら下着を脱がされる。 抵抗はできない。「んん……あ……」 耳朶をカプっと噛まれ、感じたくはないのに身体が反応している。 こんな自分が恥ずかしく、悔しい。「身体は素直だな。美月?」 私を上から見下し、そう言って彼は笑う。「そんなことない!」 悔しくて言い返したが、彼が私の身体に触れる度に自分じゃなくなっていく。 あぁ。こんなことならあの日、出かけなきゃ良かった。 そうしたらこの人と出逢うこともなく、こんな契約も結ばなくて良かったのに――。
Last Updated : 2025-08-21 Read more