ホーム / 恋愛 / Love Potion / チャプター 61 - チャプター 70

Love Potion のすべてのチャプター: チャプター 61 - チャプター 70

88 チャプター

決意 3

 席への案内後、料理をテーブルに運ぶくらいならプラスでできるかもしれない。テーブル番号だって、わかる。 私はキッチンにいる平野さんに声をかけた。「お忙しいところ、すみません!私、もっと動いても大丈夫ですか?お待たせしてしまっているお客様もいらっしゃるので。もちろん、フロアーのスタッフさんに相談しながら動きますが」 キッチンもオーダーが何件も入っているらしく「すみません。お願いします!」 平野さんは険しい顔をしながらも<もう仕方がない>そんな感じで提案を受け容れてくれた。 フロアー担当のスタッフさんに相談をし、私の対応量を増やしてもらった。「お待たせいたしました。何名様ですか?」 こんなに忙しいの本当に久しぶり。 大変だけど、なんだか懐かしい。 高校の時も飲食店でアルバイトとかしてたもんな。 私が動くことで、少しだけスムーズにお客様の対応ができるようになった。 でも……。 もうすぐランチタイム。 一番忙しい時間になる。この状況、どうなるんだろ。 その時――。「すみません。遅くなりました」 私が食器を下げようとしていた時、後ろから話しかけられた。「えっ?亜蘭……佐伯さん?」 危うく下の名前で呼ぶところだった。 振り返るとベガの制服に身を包んだ亜蘭さんが立っていた。「本部の方じゃ調整が難しくて。事務仕事している人間が、いきなりカフェ店員ってみんな嫌がるんですよね。面倒なので、僕が来ました。よろしくお願いします」「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」「僕は一応、オーダーとかレジもできますので。慣れてはいないんですが。九条さんは、今のような感じで対応してもらえれば助かります。すみません、急に。こんな仕事」 亜蘭さんって、ベガのフロアーもできるんだ。「わかりました。よろしくお願いします」 彼が入ってくれたおかげで、ランチタイムでもなんとかお客様にクレームを言われることなく乗り切れた。 それにしても彼の動き、すごいな。 何年もベガで働いている人みたい。 スッと動いてオーダー取っているし、ちゃんとお客様の前だからか愛想も良い。 仕事ができる人ってこんな人のことを言うんだろうな。 「九条さん、休憩してください。一度も休憩してないですよね。申し訳ないです」 お客様が落ち着き、平野さんがキッチンから出てきてくれ、
last update最終更新日 : 2025-10-17
続きを読む

決意 4

「前に来てもらった、加賀宮さんのプライベートオフィスで話をしたいんですが、大丈夫ですか?」 今日は孝介、帰ってこないはず。「はい。大丈夫です」「ありがとうございます」 プライベートオフィスに着く。 エレベーターに乗り、部屋に入る。  ソファに座らせてもらうと「これを。美月さんに」 亜蘭さんが渡してくれたのは――。「小型の隠しカメラです」 隠しカメラ……。「プライベートの空間に取り付けることになるので、抵抗があるかもしれませんが。離婚に向けて、有利になる情報を集めてほしいんです。例えば、九条孝介と家政婦が浮気をしている現場であったり、美月さんは辛いと思いますが、DVを受けているところ、モラハラを受けているところであったり」 こんな小さなカメラがあるんだ。 部屋に取り付けても、孝介は気づかないだろう。「住居者自身が自宅に隠しカメラを取り付けることは基本的に違法ではありません。しかし九条孝介と家政婦には、もちろん秘密で設置することになります。もしもこれから争った時に、向こうがプライバシーの侵害だと訴えてくるかもしれません」 孝介と争う……。「だけど、俺たちがついています。しばらくは辛いかもしれませんが、美月さんには証拠を集めてほしいんです」「わかりました。寝室とリビングに設置します」 俺たちがついている、とても心強い言葉。今の迅くんなんて、誰にも負けないって感じの雰囲気だし、亜蘭さんもこんなに協力してくれるなんて。 私と関わることって、亜蘭にとっては仕事なのだろうか?「関係ないことかもしれませんが、亜蘭さんってどうしてそこまで迅くん……。あ、加賀宮さんに協力してくれるんですか?仕事だからですか?」 亜蘭さんはフフっと笑って「俺の前では<迅くん>で大丈夫ですよ。なんか新鮮です。加賀宮さんのことを迅くんなんて呼んでる人、はじめてなので……」 彼の話は続いた。「加賀宮さんには昔、いろんなことで助けられました。加賀宮さんがいなかったら、大げさかもしれないですが、俺は死んでいたかもしれない」 死んでた? 亜蘭さんも訳あり、かも?「あの、もし良かったら教えてほしいです。話せるところだけで良いので。迅くんのこともっと知りたいんですけど、彼はなかなか教えてくれなくて」 私が記憶をなくした後、迅くんはどうやって生き
last update最終更新日 : 2025-10-18
続きを読む

決意 5

「久しぶりの再会の時、変なお酒を飲ませてここへ連れ込んで、あんなことしなくたって。亜蘭さんも知ってますよね?」「ええ。あれは俺もドン引き……。あ、言わないでくださいよ?彼にとっては歪んでいる愛情表現と思ってあげてください」 いきなりあんなことされたら嫌いになるよ。 脅されてたし。 亜蘭さんとこんなに長い間話したことなかったけど話しやすい。同い年だからかな。「わかりました」  私が返事をすると、彼は口角を上げてとても柔らかい表情をしてくれた。  亜蘭さんに自宅まで送った。「今日はありがとうございました。明日はゆっくり休んでください」「はい。こちらこそありがとうございました」 亜蘭さんに軽く手を振り、帰宅した。 誰も居ない部屋。 明日は孝介が帰ってくるんだろうな。 そんな当たり前なことをつい<嫌だな>と感じてしまう。 でも――。 迅くんや亜蘭さんが協力してくれる。 とりあえず、隠しカメラを設置しなきゃ。 寝室とリビングに取り付けることにした。 次の日。 朝から孝介が帰ってくるかと思って身構えていた。けれど、彼が帰ってくることはなかった。 しかし<ピンポーン>というインターホンが鳴り、画面に映る人物を確認する。 家政婦の美和さんだ。 美和さんが来るってことは、今日の夜には帰ってくるってことだよね。<こんにちは>「こんにちは。今、開けます。玄関も開けておきますね」 美和さんと二人きりの状態は、浮気がわかってからは今ではしんどい。 エントランスの鍵と玄関の鍵を開けて部屋で待っていると「お邪魔します」 美和さんが部屋に入ってきた。「よろしくお願いします。私は今日、リビングでちょっと作業をしていますので。何かありましたら、声をかけてください」 一瞬、美和さんが考え込んだように見えた。「はい。わかりました。それでは、お掃除から始めますね」 何をするんだろうって顔してたな。 私もいちいち気にしないようにしないと。 私がさっき掃除はしたばかり。 だけど、<美和さん>が掃除をしてくれたって方が、孝介にとって安心できる部屋になるだろう。「私がさっき掃除したので」なんて勝手に美和さんの仕事をなくしたら、告げ口されて「どうしてそんなことをしたんだ!」って怒鳴られるだけだ。 私はリビングのソファに座り、ベガ
last update最終更新日 : 2025-10-19
続きを読む

決意 6

「直接、彼女に聞いてみる」 孝介はスマホを取り出し、美和さんに電話をかけた。「もしもし?すみません。急に。あの、今日作ってくれたミネストローネなんだけど、ちょっと味がおかしくてさ?美和さんが作る料理はいつも美味しいから。どうしたのかなって思って」 言い方がかなりやんわりしてる。 この味付け、ちょっとどころではないのに。「えっ。そんなことがあったんですか?ごめん。美月にはキツく言っておくから。うん。わかった。また明日、よろしくお願いします」 美月にはキツくってどういうこと? 私、何もしてない! 彼は「はぁ」と溜め息をついた後「お前、美和さんの作った料理にケチをつけたらしいな?」 そう言って、キッチンテーブルを叩いた。「えっ?」  ケチをつけたって。私、そんな言い方してない。「ケチはつけてないよ。美和さんに、味付けをアドバイスしてほしいって言われて。コクを出すなら少し味噌を足した方が良いって言っただけ……」「それが余計なお世話なんだよ!調子に乗るな!!美和さんが素直にそれを受け取ったから、こんな味になったんだろうが!」 室内に響く、怒号。 いや、少しでこんな味にはならない。 もしかして美和さんはわざとこんなことを? 孝介は美和さんを信じている。私の言葉なんて伝わらない。 私が黙っていると「非常に不愉快だ。お前、罰としてこれ全部飲め」 眼が、本気だ。「嫌よ」 私なりに精一杯反抗する。「食材を無駄にしやがって!誰が金を稼いでると思ってるんだ!」 孝介は私に近寄り、平手で頬を殴ろうとした。「やめて!」 私は咄嗟に自分の腕を使い、防ぐ。「チッ」 孝介は舌打ちをし「二度と美和さんの料理に口を出すな」 そう言って、自室に入って行った。 急に肩の力が抜ける。 座り込みそうになったが、なんとか耐えた。 美和さんのこと、そんなに大切なんだね。 孝介が私と一緒に居る意味などない。 腕が痛い。顔だったらもっと痛かったかな。  私はテーブルに残った食事を片づける。 美和さんと会った時、私はどんな風に接すれば良いんだろう。 次の日、孝介は言葉を発することなく、仕事に行った。 朝から怒鳴られるかと思ったけど、昨日のことについては、何も言われなかった。 私もあと一時間ほどでベガに出勤予定。
last update最終更新日 : 2025-10-20
続きを読む

決意 7

 美和さんは私をキッと睨みつけると「美月さん、わかっていると思いますけど、あなたが料理ができないから私が頼まれているんですよ?私が昨日、アドバイスをくださいって言ったのは、気を遣ったつもりなんですけど。カフェ事業だって、別にあなたの料理が認められたわけじゃない。孝介さんがシリウスの社長と良い関係を築きたくて選択したことであって、会社のためなんです。シリウスだって九条グループっていう大きな企業と関りを持ちたかったから。あなたの力じゃないんです。一人じゃ何もできないのに。孝介さんのお荷物だって、いい加減自覚したらどうですか?掃除もできない、料理もできない。孝介さんから愛されてもいないのに。痛い女すぎますよ?」 あれ?美和さんって、冷静なイメージだったけど。 彼女の本音を直接聞くことができて、怒りよりもなんだかスッキリした。 それに――。 こんなに話してくれて、かえって好都合だ。「どうして美和さんがそんなことを言えるんですか?シリウスとか九条グループとか。それは美和さんの推測ですよね?まさか、孝介さんが会社の内情を美和さんに話したんですか?あと、なんで私が孝介さんから愛されていないなんてことを言えるんですか?」 私が孝介から愛されていないことは確か。<愛されてもいないのに>なんて発言をしてしまったのは、美和さんが孝介と不倫関係にあるからこそ。愛し合っているのに、報われないから。そんな僻みとも取れる発言が出てしまったんだよね。「っ……!!」 美和さんは唇を噛みしめていた。「すみません。今日はもう帰ります。具合が悪くなってしまったので。早退したこと、孝介さんには私から直接連絡をしておきます」 彼女は、エプロンも外さずに部屋から出て行った。  これまで美和さんとは、表面上はうまくやってきたつもりだった。 それが今日、一瞬で崩れてしまったけれど、彼女の本性を実際に肌で感じることができて良かった。 彼女は孝介に今のことを都合の良いように話し、助けを求めるだろう。 悲劇のヒロインを演じるに違いない。 私は帰ってきた孝介から、どんな仕打ちをされるかわからない。 今の私には、とても心強い味方が居てくれる。 だから、きっと大丈夫。自分の未来のために頑張るって決めたんだ。  気持ちを切り替えなきゃ。 
last update最終更新日 : 2025-10-21
続きを読む

決意 8

「私は自分を曲げないから。仕事だから、上辺だけは普通に接するけど。あんな余計な人がいない、いつものベガに早く戻ってほしいと思っているから」「おいっ!」 その後、急に静かになった。 藤原さんがフロアーかキッチンに戻ったみたい。 深呼吸をして控室をノックする。「失礼します。よろしくお願いします」 私が入室すると、平野さんの肩がビクっと動いた。「あっ。九条さん。お疲れ様です。今日もよろしくお願いします。この間はありがとうございました」「いえ。こちらこそ。ありがとうございました」 何事もなかったかのように、平野さんは今日の内容について指示してくれた。 フロアーに入ると、藤原さんがいた。 平常心、平常心……。「お疲れ様です。よろしくお願いします」 私が挨拶をすると「お疲れ様です。こちらこそ、よろしくお願いします」 表情明るく、軽く会釈してくれた。 さっきまで私に対してあんなことを言っていた人だとは思えない。 演技だと思うけど、すごいな。  問題なく、ベガでの仕事が終わり、帰宅をする。「なんか、疲れた」 ポスっと脱力したようにソファに座る。 孝介のことも、美和さんのことも。藤原さんも……。 短い期間だけど、ベガではうまくやっていきたい。 藤原さんに認めてもらえるよう、頑張らないと。少しずつでもいい。私が頑張れば、きっとわかってくれるはず。 こんなことで疲れたなんて言っちゃいけない。 そうだ。 美和さん、今日は途中で帰っちゃったから、食事を作ってないんだ。 孝介にはもう彼女から連絡があったと思うけど、私からも夕ご飯どうするか連絡しておこう。私が作った夕ご飯なんて、孝介は食べないよね。 孝介に連絡するも、返信が来ることはなかった。 二十時過ぎ――。 玄関の扉が開く音がした。 孝介、帰ってきたんだ。「おかえりなさい」 私が迎えに行くと――。<バシンッ!>「痛っ……」 孝介にビジネスバッグを投げつけられた。「お前、いい加減にしろよ」 一瞬でわかった。予想はしていたから。美和さんが孝介に今日のことを伝えたんだ。 美和さんを傷つけられたら、怒るよね。「いきなり、どうしたの?」  私は悪くない。 彼が怒っている理由は知っている。平静を保たなきゃ。 「昨日のスープの件、美和さんを問い詰め
last update最終更新日 : 2025-10-22
続きを読む

開始 迅side~

 来客用に借りているマンションに九条孝介の浮気相手である、飯田美和という家政婦を俺は呼び出していた。 俺の家政婦として契約をするためだ。「すみません。急にお願いすることになって。助かります」 シリウスの社長として、偽りの自分を演じる。「いえ。でも、どうして私なんですか?」  写真や映像で見たことはあるが、実物を見たのは今日が初めてだった。 孝介は、この女に好意を抱いている。 どこが良いのか俺にはわからないけど。 容姿か? 綺麗だと言われればそうなんだろうけど、特別感は感じない。「実は僕、家政婦さんを雇ったことがなくて。自分のプライベートな空間に、知らない人を入れるってなんとなく不安だったんですが、最近忙しくて。掃除とかできないのが現状で、信頼できる家政婦さんがいないかなって探していたら、九条社長に紹介してもらったんです。正直、こんなに綺麗な家政婦さんだなんて思いませんでした」 興信所の調査でどこのサービス事業者の家政婦かすでに把握はしていたが、怪しまれないように、九条社長にはチラッと家政婦の話をしておいた。「そんなこと、ないです」 彼女は俺のお世辞にニコッと笑ってくれた。  家政婦に依頼したい内容を伝える。 本当に住んでいるわけではないため、掃除くらいしかすることはない。「わかりました。基本的にお掃除をすれば良いんですね」「はい。お願いします。あっ、あと。本当はいけないことかもしれませんが、僕も孝介さんと同じように、美和さんって呼んでも大丈夫……ですか?」 家政婦は一瞬目を見開いた。 いきなりすぎたか? 本当はもっとゆっくりこの女を落としていくつもりだったけど、時間がない。美月をこれ以上傷つけたくない。孝介も何するかわからないし。「あっ。はい」 いいのか。「良かった」 自然と口角が上がった。「それで、美和さん。もし良かったらの話なんですが、このあと、何か予定とかはありますか?急な依頼を受けてくださったお礼に、食事でもご馳走できたらと思って。個人的な誘いを含んでいるので、美和さんの会社には内密にしてほしいんですが」 これも一種の賭けだな。 普通だったら断るところ、この女はどう出るだろう。 難しいと思ったが、家政婦の目が輝いていくのがわかった。「あっ。はい。私で良かっ
last update最終更新日 : 2025-10-23
続きを読む

対決 1

 孝介に殴られた次の日。 彼が出勤する時と同じ時間に起きてくることはなかった。 今日に限って仕事が休みなんだ。胃が痛くなりそう。  私はベガに出勤だけど、案の定、鏡で顔を見ると腫れていた。 それほど酷くはないけど、お化粧すると痛いし、マスクをして隠して行こう。 ベガに出勤すると「あれ?風邪ですか?」 マスク姿の私を見て、藤原さんに訊ねられた。「喉が枯れている気がして。乾燥するといつもそうなんです。保湿のために付けてます」 本当は何も問題はない。「ええっ!それは大変。私、本部に連絡するんで今日は休んでください!」  えっ、いきなり!?「あっ、でもこの間もお休みいただいたばかりで。いつものことなので、気にしないでください。熱とか、風邪症状は特にないですから」 この間、急遽フロアーを手伝った時にもお休みをもらっている。 それに、今日家に帰ったら孝介も居るし。帰りたくない。「慣れない仕事で疲れてると思います。もしかしたら風邪かもしれないので!私から連絡しとくんで大丈夫ですよ!」 藤原さんは私の話を聞いてくれない。 どんどん職員通用口へ追いやられている。 今日は平野さんもお休みみたいだ。  この間の藤原さんの言葉を思い出し、極力私に関わりたくないんだと肌で感じてしまった。彼女の勢いに負けて、お店の外に出てきてしまった。 どうしよう、迅くんに相談……。 ううん、仕事忙しいよね。亜蘭さんなら電話、出てくれるかな。 数回のコールの後、亜蘭は電話に出てくれた。<お疲れ様です。どうしましたか?>「お疲れ様です。あっ、えっと。今、話しても大丈夫ですか?」<はい。大丈夫です>「あの、実は……」 私が話を続けようとした時――。 一瞬、電話越しに迅くんの声がした。<ちょっ!待ってください。今代わりますから>「えっ?」 迅くん、近くに居るのかな。<美月。なんで亜蘭に電話すんの?> あっ、迅くんだ。「だって、忙しいと思って。仕事のことだし、下っ端がいきなり社長に電話するって普通はあり得ないでしょ」<美月はいいんだよ>「えっ?」<美月は特別。もし出れなかったら絶対かけ直すから。緊急だったら亜蘭でいいけど> 特別。 そんなこと言われて、ドキッとしてしまう自分がいた。<で、どうした?>「あ
last update最終更新日 : 2025-10-24
続きを読む

対決 2

 しばらく待っていると、目の前に見覚えのある車が停まった。「乗って」と迅くんに合図をされ、助手席に座る。「ごめん。ありがとう」「いや、大丈夫。とりあえず、車走らせる」 向かった先は、彼のプライベートオフィスだった。「座って」 そう言われ、ソファに座る。「マスク、外して?」 彼の言う通りにマスクを外した。「まだ少し腫れてるな」 彼に優しく触れられる。「大丈夫。ちゃんと写真も撮ったよ」 隠しカメラに映っていると思うけど、自分でもDVの証拠になればと写真を撮った。「ごめん、辛い思いさせて」 迅くんは私の手を握ってくれた。「どうして迅くんが謝るの?迅くんが居てくれるだけで、私は助かってる。ありがとう」  私がそう伝えても、目線を下にどこか悲し気な顔をしている。今の迅くんらしくない。「迅くんの方がもっと大変な思いをしてきたと思う。だから私も負けない」 私が彼の頬に触れるとやっと優しい顔をしてくれた。「美月、今自宅は旦那と家政婦の二人きりなんだよな?」「そうだよ。きっと浮気してる。あっ!」 もしかして……。「今、家の状態が見れるの?」 あぁと彼は返事をした後「美月が教えてくれたDVの瞬間と孝介と家政婦の不貞行為の現場を記録としてまとめようと思っている。美月が居ない今日は、カメラの映像を見てみるしかないから。見るの、キツかったら見なくていいよ。見たいって思えるような映像でもないだろうし」 今は私が居ない、孝介と美和だけの空間だもん。きっとこの前みたいに、寝室で身体を重ねているに違いない。「見る。今この瞬間、あの二人が何をしているのか、現実を見たい。甘えかもしれないけど、今なら迅くんが近くに居るから大丈夫」 一人で見る気はしないけど、迅くんが近くに居てくれる今なら。「わかった」 彼はパソコンを開いて、自宅に設置してある隠しカメラの様子を確認してくれた。  あんな小さなカメラなのに、思っていた以上に鮮明に見えるんだ。 撮られている映像を見るのは、初めてだった。「まずはこれがリビング」  パソコンを操作しながら迅くんは教えてくれたが、リビングには誰も映っていない。 やっぱり――。「次に寝室」 マウスをクリックすると、そこには――。「げっ!」 思わず反応してしまった。「あ
last update最終更新日 : 2025-10-25
続きを読む

対決 3

<バカ女にはキツく言っておいたし、一発殴っておいたから。本当にごめん。俺は美和のことを愛してる。たとえ今は難しくても、きっともうすぐ――><いつもそう。もうすぐだからって。結局、あの女と別れてくれないじゃない> リアルな会話、他人事じゃないのに。 まるで昼ドラとか深夜ドラマのシーンみたい。<ごめん。俺がもっと上の立場になれば。社長になれる日もそう遠くはないから!だからその時まで待っていてほしい><ごめんなさい。今日はこれで帰るね>ちょっと、待って!美和!> 二人の話はまだ続きそうだったが「証拠としては十分だな。不愉快だから、切るよ」 そう言って迅くんは画面を消した。 美和さんの様子が明らかに変だ。 ふぅと息を軽く吐いた後「美月。ごめん。今日この後、用事があって。時間までここに居てくれていいからゆっくりしてな。もし殴られたところが痛み出したら言って?医者呼ぶ。亜蘭にも伝えておくから」 迅くんはそう言ってくれた。 忙しいよね。「うん。わかった。ありがとう」  彼とはまた会えるのに。なんだか寂しい。 見送ろうと立ち上がると、頬に当たらないようにギュッと抱きしめてくれた。「ちょっと充電」  彼のことがわからなかった時は拒んでしまった時もあるけど、今は彼の胸の中が幸せ。 彼が仕事に行ってしまったあと、ソファで傾眠してしまった。 夜中あまり眠れていないのは、変わらない。 あんなベッドで熟睡できるわけがない。 帰ったら、孝介が待っている。 時間がきても<帰りたくない>そんな気持ちの方が強い。 弱音、吐いちゃダメだ。 仕事に行っていたと見せかけるため、ベガの退勤時間に合わせ帰宅をした。 鍵を開けると、孝介の靴があった。部屋に居るんだ。 リビングに行くと、孝介がテレビも見ずに座っていた。「ただいま」  声をかけるも無言。「ご飯、何時にしますか?」 その時――。 孝介が「お前のせいだ」 そう言ったのが聞こえた。 今、お前のせいだって言った?私、今日は何もしてない。「どうしたの?」 恐る恐る、彼の後ろ姿に声をかける。「お前のせいで、今日も彼女の様子がおかしかった。お前がこの前、美和さんに変なこと言うから、きっと傷ついたんだ」 カメラの様子を見ていたから、本当は私も知っている。 孝介は怒鳴るわけでは
last update最終更新日 : 2025-10-26
続きを読む
前へ
1
...
456789
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status