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Love Potion のすべてのチャプター: チャプター 71 - チャプター 80

88 チャプター

対決 4

 どうしよう。 この距離なら迅くんの声も聞こえちゃうかもしれないし、なんて言えば。 ドクンドクンと心臓の鼓動が聞こえる。 呼吸も上手くできない。 立ち止まり、動けずにいた時だった。 孝介のスマホが鳴った。 彼はポケットからスマホを取り出し、相手を確認している。「父さん?」 お義父さん!?このタイミングで? 誰でもいい。お願い、電話に出て!「もしもし?どうしたの?」 孝介が電話に出た瞬間、私は走り出し、玄関から飛び出した。 靴など履いていられない。「おいっ!!」 孝介が私を呼び止める声が聞こえたが、無視をした。 エレベーターを使わず、階段をかけ下りる。「迅くんっ、助けて」 電話がまだ繋がっているため、彼に思わず助けを求めた。<わかってる。今向かっているから。とりあえず、孝介に見つからないようなところへ隠れて> 息が切れる。 後ろを振り返る勇気がなかった。 マンションのエントランスから外へ出て、近くの公園まで走る。孝介が追ってくることはなかった。「はぁっ……はぁっ……はぁ……」 呼吸を整えようと、深く息を吸ったり吐いたりするので精一杯だ。<大丈夫か?今、どこにいる?> あっ、まだ電話繋がったままだ。「近くのっ……。公園にいるよっ」<もうすぐ着くから> 迅くんからそう言われた数分後、見たことのある車が近くに停まった。「大丈夫か!?」 迅くんと亜蘭さんが迎えに来てくれた。「大丈夫」「とりあえず、車に乗ってください。あっ!美月さん、足、どうしたんですか?」「慌てて出てきたから。靴も履けなくて」 そういえば、足裏が痛い。「暴れんなよ?」「キャッ!」 迅くんが私を抱えてくれた。「ちょっ、迅くん。大丈夫!歩けるから!もしかしたら孝介が近くにいるかもしれないしっ……」 私を追いかけて、近くにいるかもしれない。「別に見られても問題ない。靴履いてないって言えばいい」 そのままの理由でいいの!? 彼に抱えられたまま、亜蘭さんが運転する車に乗った。「とりあえず、俺のオフィスに行くから。そこでいろいろ説明する」「わかった」  逃げるように出てきてしまった私を、孝介はどんな風に思ってるんだろう。   私が帰った時の孝介の取り乱し方、尋常じゃなかった。 何があったの?迅くんなら何か
last update最終更新日 : 2025-10-27
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対決 5

「お姫様抱っことおんぶ、どっちがいい?」 オフィスに着き、車から降りる時にそう訊ねられた。<裸足でも大丈夫>なんて言っても<絶対ダメ>って言われるよね。 抱っことおんぶ、どっちも恥ずかしいけど……。「おんぶ」 一言返事をする。 迅くんはフッと笑い、背中をかしてくれた。彼の背中に掴まった。 あっ、子どもの頃も迅くんにおんぶしてもらったことがあるような気がする。「ねぇ。昔も私が転んだ時におんぶしてくれたよね?」「よくそんなこと覚えてるな」  やっぱりそうだ。 彼は昔から私を守ってくれた。 今日だって、迅くんがいなかったら私は……。  ギュッと彼の肩にしがみついてしまった。「もう大丈夫だよ」 迅くんがそう言ってくれた。  また戻って来ちゃった。 さっきまでここのソファに座っていたのに。 ソファに座らせてもらい、タオルで足を拭き、消毒をした。 迅くんがほとんどやってくれたから<消毒してもらった>が正解かもしれないけど。「迅くん、カメラで見てたの?孝介の様子」  あの窮地にタイミングよく電話をかけてくれたってことは、リアルタイムで見てたってこと?気になっていたことを素直に彼に聞いた。「まぁ……な」 あっれ? 歯切れが悪い返事。「加賀宮さん、美月さんには話しておくべきです。九条孝介が取り乱した理由。美月さんがここに避難して来ている時点で、もう帰宅できる状態ではありません。あの人に何をされるかわかりませんよ。証拠は揃ったんです。結局は、あの家政婦の証言も利用しなきゃいけないんですから」 亜蘭さんは知ってるんだ。「あー。わかったよ。二人になりたいから、亜蘭、美月の靴買ってきて?」 えっ。どうしよ。 手持ちのお金、いくらあったっけ? お財布の中を確認しようとすると「金は要らない」 迅くんに止められる。「わかりました」 亜蘭さんはオフィスから出ていき、迅くんと二人きりになった。「こんなに話が進むと思わなくて、予定が狂った」「どういうこと?」 しばらくの沈黙。 私に言いにくいこと?「不倫の確実な証拠を集めるために、美和に近づいた」「えっ」 あの女って、美和さんのこと?「別宅として借りているマンションの家政婦に一時的になってもらった。それで、気のあるような素振りをして、食事に誘い、俺を
last update最終更新日 : 2025-10-29
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対決 6

「孝介がお前にやったことは、許されない行為。不倫もDVも。そして既婚者と知りながら、ずっと関係を続けていたあの女も罪に問われるのが当たり前。結婚してからずっと騙されてたんだぞ。失った時間は戻って来ないんだから」 孝介と過ごしていた無駄な時間も、ただ人形のように何もすることなく生きていた時間も戻ってこない。「うん。わかってる」 私は自分の幸せのために生きるって決めたんだ。 「俺が居るから心配すんな」 ポスっと頭を撫でられる。「明後日、九条社長を呼び出した。孝介も連れて来いって伝えてある。孝介の弱みである父親の前で全てをバラす。離婚の件は、なんか理由をつけて俺が美月の代弁をしてもいい。その場に居るの嫌だろ?」 お義父さんと孝介の前で離婚したいって言わなきゃ。怖いけど、そこまで迅くんに頼りたくない。「私が自分で離婚したいって言う」 迅くんは「わかった。近くに居るから」 私がなんて答えるか事前にわかっているようだった。「何から何まで、本当にありがとう」  明後日の段取りについて、迅くんから説明してもらった。 離婚についてはもちろんのこと、孝介が会社のお金を私的に使っていたことについて問い詰めるらしい。「BARで美月に会った時から、知り合いの興信所に依頼して調査してもらってた。孝介の行動はチェック済み。何をしているか、今日は家政婦の家に行くか……とか」 だから迅くんは孝介の行動を予想することができたんだ。 過去場面を振り返ると<なるほど>と思ってしまうところが多々ある。 今日は自宅に帰ると危ないからと、ホテルを予約してくれた。 迅くんはこの後も仕事らしい。 カフェへの出勤は、急遽休みにしてくれた。「明後日の朝、迎えに行くから。本当は一緒に居てあげたいけど、ごめん。何かあったら連絡して。明日家に帰る時は、亜蘭を同行させるから。必要な物、持ってきて」 明日孝介が仕事に行っている間に、自宅へ戻り、必要な荷物を取りに行く予定だ。明後日、離婚の話をした後は、念のためしばらくホテルに泊まることになる。<孝介が何をするかわからない>って配慮してくれた。 実家に帰ろうとも思ったが「ホテルの方が気が楽だろ?」 迅くんがそう言ってくれた。「本当は俺の家に泊まってもい
last update最終更新日 : 2025-10-31
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対決 7

 迅くんを見送った後、一人ホテルへ入る。「広い」 一人なのに、こんなに広い部屋に泊まっていいのかな。 ふかふかのベッド。アメニティもしっかりしている、冷蔵庫に飲み物も入ってる。「必要なものを買って」と現金まで預かってしまった。できるだけ使わないつもりだけど……。  スマホを見ると、孝介からメッセージが届いていた。<お前、どこにいるの?><どこかで保護でもされて、恥をかかせるなよ><帰ってきたら、覚えておけ><父さんと母さんにはもう相談したから><自分が迷惑かけてるっていう自覚ある?>「見たくない。これも一応、モラハラとかの証拠になるよね」 スクリーンショットに保存して、メッセージもそのままにしておいた。返信はしない。 迅くんは今でも仕事頑張ってるのに。 仕事も忙しいのに、私のことまで。 感謝……しないと。 急な展開で頭が働かず、その日はシャワーを浴びて寝ることにした。  次の日、ホテルに迎えに来てくれた亜蘭さんと荷物を取りに行くため、自宅マンションへ向かった。「亜蘭さんも本当にありがとうございます。巻き込んでしまって、すみません」  亜蘭さんも通常業務に加えて、私の面倒も見なきゃいけないから大変な役割だよね。「いえ。俺が加賀宮さんについて行くって決めた時点で、加賀宮さんのやりたいことは俺のやりたいことでもあるので。それに、美月さんと再会した後の加賀宮さん、とても活き活きしてて。眉間にシワ寄せてる社長より、俺も仕事がやりやすくて助かります」  仕事の時は物腰柔らかって感じだけど、厳しいところは厳しいんだ。  鍵を開け、自宅へ入る。 リビングに行くと――。「うわっ。なにこれ……」「一日でこんなに……。ですよね?」 目の前の光景に亜蘭さんと二人で絶句する。 イスは倒れているし、机は横になっているし、ゴミは散乱している。イライラして、物に当たった後みたい。「飯田美和にはフラれて、家政婦としての契約も解消するみたいです」「そうなんですね」 他の家政婦さんを雇うまで、孝介一人で家事をするんだ。それか実家に帰るのかな。「寝室とか大丈夫ですか?美月さんの物とかも確認した方が良いですね」 冷静に考えてみると、そうだ。 リビングがこんな状態だったら、寝室とかどうなっているんだろう。 寝室はベッドの上の布団
last update最終更新日 : 2025-11-02
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対決 8

 相手を見ると――。 迅くんだ。「もしもし?」<もしもし。今、ホテル?>「うん。そうだよ」<亜蘭から聞いたけど。洋服とか、大丈夫か?> 亜蘭さん、もう迅くんに伝えたんだ。「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」<金、渡してあるだろ?使えばいいのに> そう言ってくれると思ったけど、私が働いて稼いだお金じゃない。迅くんが頑張っているからこそのお金だ。「そんなわけにはいかないよ」 電話越しで、彼は<はぁ>と息を吐いたかと思うと<美月ならそう言うと思った。本当は美月に会いたいんだけど、忙しくて。ちゃんと飯だけは食べろよ。じゃないと、怒るからな。明日は精神的にも大変だし、体力だって消耗すると思う。しっかり食べておいて> 念を押された。「うん。わかった。ありがと」<じゃあ、明日は俺が近くに居るから。言いたいこと、しっかりと伝えろよ> 最後に<何かあったら連絡して?>と彼が言ってくれ、電話を終えた。 明日は孝介とお義父さんと闘わなきゃ。 次の日――。「お待たせしました。行きましょうか」 ホテルのエントランスで待っていると、亜蘭さんが迎えに来てくれた。「はい」 今から緊張している。 大丈夫だと心の中で何度も自分に言い聞かせた。 迅くんのシリウスに到着し、亜蘭さんの後ろをついて行く。 この前とは違う、狭い会議室に通された。 そこには迅くんが座っていた。 孝介とお義父さんの姿は見えない。「よろしくお願いします」 私が迅くんに頭を下げると、彼はハハっと笑って「緊張してるな。美月らしく言いたいこと、言えばいいよ。俺は俺でやりたいことやるから」 至って迅くんはいつもの迅くんだ。 迅くんは私に近づき「これが終わったら嫌だって言うくらい、美月のこと愛したい」 そう耳元で囁かれた。 ゾクっとして、肩に力が入り、身体が反応する。「今それ、言う!?」 大きな声を出してしまったが、近くにいた亜蘭さんが笑っている。迅くんも余裕そうに笑っていた。 二人のおかげで緊張が解けた気がする。 そんな時、亜蘭さんのスマホが鳴った。「社長、先方が到着したようです」「わかった。ここへ案内するように伝えて。美月は、座ってていいよ。向こうから何か言われても返事はしなくていい。俺が合図するから、そこで話して」「はい」 ここからが勝
last update最終更新日 : 2025-11-04
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対決 9

「ちょっ、それはどういうことですか?業務提携はともかく、僕と美月との離婚って。なぜそういった話になるんでしょうか!?」  孝介が声を大きくした。「私も突然そのようなことを言われ、理解できません。説明をお願いします」 お義父さんも眉間にシワを寄せている。「まずは、僕宛てに一種の告発が入ったのがキッカケでした。提携を結ぼうとしている九条グループ社長のご子息である孝介さんが会社のお金を横領していると」「はっ!?」 孝介の顔色が変わった。「例を言えば、接待交際費、備品等の改ざん。また、会計係と共謀して給料とは別に会社の資金を自分の口座に振り込ませていたようです」 そんなことしてたんだ。私でも知らなかった事実に驚く。「証拠はあるんですか?」 お義父さんが冷静に問いかけた。「もちろんです。佐伯、映像を」「かしこまりました」 亜蘭さんがパソコンを操作すると、ある映像が映し出された。 そこには旅館のようなところに映っている孝介と――。 孝介の隣には女の人もいる。 あれ、この女の人って……。美和さん!?<すみません。領収書をお願いします> 映像の中の孝介は、フロント係の人にそう伝えている。「これは、普通に出張に行った時ですよ」 目の前の孝介は弁解をしているけれど……。<孝介さん、すごい。会社のお金を自由に使えるって、さすが次期社長だね。これからもいろんなところ旅行に行こうね> 美和さんが孝介の右腕を掴みながらそう言った。<うん。行こうね。こういう時、親が一流企業の社長って楽だよな。領収書なんて深く詮索されないし。ま、したくても怖くてできないんだろ?> 映像の中の彼は<ハハハハハッ>と楽しそうに笑っていた。「いや、これは……。あのっ」 言い訳が見つからないのだろうか、言葉に詰まっている。  次に映し出されたのは、数人の男性と孝介が夜の街で歩いているところだ。<今日は俺の奢りだから。って言っても、会社の金だけど。接待交際費で落とすから、どんどん飲んで?あ、この後、風俗行かない?それも俺が出すよ。それも会社の金だけどな> 映像の中の孝介はお酒を飲んでいるのだろうか、多弁だ。<え、風俗も会社の金で落とせるんですか?><風俗っぽくない店の名前ならわからないって。社員なんて、何千人もいるんだぜ。但し書き、飲食代としてって書いても
last update最終更新日 : 2025-11-05
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対決 10

「私は、孝介さんと離婚したいです。彼の浮気を直接知ったのは、私の通っている料理教室が偶然お休みになってしまって。自宅に帰った時でした。寝室から……。孝介さんと家政婦さんの声が聞こえてきて、身体を重ねていました。その時、録音したものもあります。それに、私は孝介さんから暴力を受けていました。気に入らないことがあると殴られたり、蹴られたり。お前のことは最初から愛していないとも言われました」「美月!!」 孝介から怒鳴られた。 しかしお義父さんは「証拠はあるんだろう?」 もう諦めているようだった。「もちろんです」  加賀宮さんは亜蘭さんに指示を出し、孝介と美和さんが裸で室内にいるところの映像や録音した音声、私が殴られた時の写真や、迅くんの主治医に診てもらった時の診断書を提示した。 あの時、先生に診断書まで頼んでくれていたんだ。「今日も自宅に帰ったら、私の洋服が切り刻まれていて……」 写真を見せた。「孝介さんとの未来は考えられません。離婚してください」「こんなのプライバシーの侵害だ!!訴えてやる!」 孝介が震えながら、そう叫んだ。 「美月さんが不貞行為の証拠を集めようとしてカメラを設置したのは、有効な判断だと言えます。不貞行為は裁判上の離婚原因として規定されていますし、彼女は暴力も受けていました。生活するのに必要なお金も十分に渡されず、一週間もの間を千円で過ごせと言われたこともあるそうです」 迅くんが代弁し、私を擁護してくれた。「孝介、お前!そんなことまでしてたのか!?」 さすがのお義父さんもこれだけの証拠が揃えられ、息子をかばいきれないようだ。「そんなこと……」  孝介もそんなことはしていないとはっきり言えないみたい。 嘘をついたらさらに自分のしてきた悪事がバレるのではないかと思っているのかな。 迅くんは気にすることなく、話を続けた。「裁判を起こしても良いと思いますが、時間もかかりますし、これだけの証拠があるんです。美月さんの気持ちは変わりませんし、孝介さんがイエスと答えてくれれば、穏便に協議離婚という選択もありますがいかがでしょうか?そもそも孝介さんは美月さんを愛していなかったわけですから、未練なんてありませんよね?」 この状況下でも、迅くんは笑みを浮かべている。「……。ありません。慰謝料も支払います。ただ一つ
last update最終更新日 : 2025-11-07
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対決 11 それぞれの行方 1

「最近わかったんですが、僕と美月さんは幼い時、友人関係でした。彼女のご両親も知っています。縁があって、こうやって再び知り合うことができました。僕が願うのは、彼女の幸せとシリウスの安泰です。最初にお伝えした通り、九条社長には孝介さんと美月さんの離婚の承諾と、九条グループとの業務提携の話を円満に白紙にしていただきたい、それだけです。あと、これは後々の話になるのですが、玩具のサブスクにも興味がありまして。遠坂社長には相談中なのですが、ベリーズトイを買収させていただきたいと思っております。友好的買収で話を進めていきたいんですけどね」 そう言って迅くんは微笑んだ。 遠坂社長!? ベリーズトイって私のお父さんの会社じゃない!!そんなこと聞いてないわ! 言葉を発しそうになったが、堪えなきゃ。「わかりました。離婚は孝介の父親として承諾します。美月さんには本当に申し訳ないことをした」 そう言うとお義父さんは、私に向かって頭を下げてくれた。「サブスクの件は大変残念です。信用を失うような行動をした社員のせいで。どうか、この件に関しては、公にはしないでいただきたい」 お義父さんは迅くんに向かって頭を下げた。「その社員の今後については、どのようにお考えでしょうか?」 迅くんが孝介に送る、冷たい目。「まだはっきりと決めていませんが。親の私がいたから甘えていた部分もあると思います。一からやり直してほしい。私的に使った資金については、調べて返済するように命じます」「父さん……」 孝介は涙を浮かべていた。 が――。「お前には本部から支所へ異動してもらう。あとの処分については、後日検討する」「えっ。異動って?」 自分の置かれている状況がまだ理解できていない様子だ。「次期社長は、河野専務取締役を推薦しようと思う。お前は反省し、一からやり直せ」 お義父さんは立ち上がり「この度は申し訳ございませんでした」 そう言って一礼をした。「この件に関しましては、書面にてまとめたものを九条社長に送付いたします。あとでサインをいただいてもよろしいですか?」「もちろんです。お前も頭を下げろ」 お義父さんは呆然と立っている孝介の頭を抑え、強制的に頭を下げさせた。「孝介さん。離婚届を書いて、机の上に置いておくね。明日、残っている荷物と一緒に取り
last update最終更新日 : 2025-11-09
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それぞれの行方 2

「荷物は明日、取りに来ましょうか?何かあったら困るので、俺が同行します」 そこまで亜蘭さんに付き合ってもらっていいのかな。返事ができずにいた。「ああ、遠慮しないでください。例えば美月さんに何かあったら、社長まで精神崩壊しそうなので。そしたら俺も仕事が増えて困りますからね」  ニコッと笑ってくれてる。 そう言わないと私が気を遣うと思ったのかな。 彼とはそれほど付き合いは長くないが、ふとそう思った。「はい。よろしくお願いします」 その時、亜蘭さんのスマホが鳴った。「はい。わかりました。そうお伝えします」 誰だろ、迅くん?「社長からです。今日はホテルでゆっくり休んでほしいと。夜、電話をするから起きていたら出てほしいとのことです」 夜遅くまで仕事なんだ。「わかりました」 ホテルに戻り、軽食を食べたあと、ベッドに横になっていた。 本当に終わったんだ。長いようで、短かったのかな。  目を閉じ、振り返って考える。 孝介は私のこと最初から好きではなかったんだ。今日のやり取りを聞いて、改めてわかった。  本当は美和さんと結ばれたかったんだよね。 家のために好きでもない私なんかと結婚することになって、どんな気持ちだったんだろう。 いろんな想いが巡った。 その時、電話が鳴った。「もしもし」 慌てて出る。 <具合、大丈夫か?> 迅くんの声だ。 今日会ったばかりなのに、なんだか遠く感じる。「うん、大丈夫。ごめん!いつも迷惑かけて」<良かった。また気絶して、俺のこと忘れてたらどうしようって思った> 冗談か本気かわからないけれど、彼は笑っていた。「覚えてるよ!迅くんにありがとうって言いたくて」<いや、これは俺のためでもあるから。美月と一緒に居たいって思う俺のため。明日、離婚届けを出したら、今後のことについて相談しよう。いつまでもビジネスホテルってわけにもいかないだろ?>「うん」  まずは住むところだよね。 しばらくは実家に帰ろうか。 あっ、思い出した。「迅くん、お父さんの会社を買収したいってホント?」<まだ先の話だけどな。一応、美月の父親にはシリウスの社長として交渉はしてる。九条社長にはああでも言っとかないと、美月の父親の会社に何か仕掛けるかもしれないだろ。それに、俺が買収することによって、美月の親も、今後
last update最終更新日 : 2025-11-11
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それぞれの行方 3

「今更なに?孝介をずっと待っていた私がバカだった。私、今日家政婦の会社をクビになったの。どうしてかわかる?あなたのお父さんが私の会社を訴えたの!自分の息子が家政婦として雇っていた女と不倫関係になって、それがキッカケで離婚することになったって。どうしてくれるの?それに、私好きな人ができたって言ったよね。孝介と違って、積極的に将来のことも考えてくれて。とても大切にしてくれそうな人。お金持ちで、かっこ良くて。やり直そうとか、無理。さよなら」 孝介を振り切って、美和は自宅マンションに入ろうとした。 「ちょっと待てよ!俺、美和のために、美和が払わなきゃいけない分の慰謝料だって払ったんだ!このマンションだって買ってあげただろ?俺にはもう美和しかいないんだよ」 すがりつくように孝介は嘆く。 しかし美和からは何も返答がない。 彼女は未練も何もない、逆に怒りの感情を伝えるように、表情は厳しい。「誰だよ!好きな人って。俺と二股かけてたってこと!?」 彼は叫ぶようにして問いかけた。  彼女は「加賀宮さん。あなたも知ってるでしょ?もっと早く加賀宮さんと出逢いたかった」 そう吐き捨てる。 再度振り返ることはなく、彼女はマンションへと入って行った。「加賀宮……。加賀宮……か。あいつ……。絶対に許さない。許さないからな……」 孝介は怒りに震えながら、ギュッと手を握りしめた。…・――――…・――― 泊まっているビジネスホテルで、迅くんから連絡が来るのを待っている。<夕ご飯、一緒に食べよう?> そんな連絡が来て、嬉しくて。  私のスマホが鳴った。<十九時くらいに迎えに行けると思うから、ホテルのエントランスで待っていて> メッセージが届いた。  身なりを整え、待っていると「お待たせ」 声が聞こえ、相手を見ると――。 「迅くん!」  スーツ姿の彼が現われた。 思わず嬉しくて、抱きつきたくなる衝動を抑える。「行こうか?」 彼の後ろをついて行く。 車に乗り、シートベルトを締めようとしたが――。「んっ……」 不意打ちのキスをされた。「会いたかったよ、美月」 彼にそう言われ、涙が出そうになる。 その言葉だけで心が満たされていく。「迅くん、本当にありがとう。迅くんと
last update最終更新日 : 2025-11-13
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