All Chapters of 暴走する愛情、彼は必死に離婚を引き止める: Chapter 151 - Chapter 152

152 Chapters

第151話

十時過ぎ。車が芦原ヒルズに着くと、真琴は「酔ってない」と言い張り、自力で歩いて家に入った。信行は仕方なく、いつでも支えられる距離で彼女に付き添った。寝室に戻るなり、真琴はソファに座り込み、動かなくなった。信行は彼女のバッグと携帯を置き、その前にしゃがみ込んだ。そっと両手を包み込み、優しく尋ねる。「どうした?」目を赤くして信行を見つめ、真琴は泣きそうな声で言った。「紗友里……私、お母さんもお父さんもいないの」その声は小さく、ひどく頼りなかった。信行は一瞬息を呑み、握った手に力を込めた。二回ほど手を握り締め、慰めた。「……俺たちがいるだろ」その言葉に、真琴は黙り込んだ。溢れ出る悲しみを見て、信行は愛おしそうに彼女の頬を撫でた。真琴は信行を見つめ返し、頬にある彼の手首を掴んで言った。「ありがとう、紗友里」泥酔して、目の前の信行を紗友里だと思い込んでいるのだ。信行は訂正せず、ただ指先で頬を撫でながら低い声で尋ねた。「シャワー浴びるか?浴びないならそのまま寝ろ」真琴はぼんやりと答えた。「……浴びる」そう言ってソファから立ち上がろうとし、信行もそれに合わせて立ち上がった。足元がおぼつかない彼女を見て、信行は先にクローゼットへ向かい、着替えのパジャマを取り出した。だが、振り返るよりも早く、真琴が背後から抱きついてきた。両手で腰を回し、その広い背中に頬を押し当てる。信行の動きが止まる。張り詰めていた心が、ふわりと解けていくようだった。しばらくして。振り返ると、真琴はとろんとした目で、今度は彼の胸に顔を埋めてきた。長い睫毛、通った鼻筋。どこを切り取っても、ため息が出るほど綺麗だ。しばらく見下ろしていたが、あまりに無防備で、珍しく甘えてくる様子に、信行は彼女の顎を指で持ち上げた。「よく見ろ。俺だ。紗友里じゃない」真琴は腰に腕を回したまま、彼を見上げる。じっと瞳を覗き込んでから、ぽつりと呼んだ。「……信行兄さん」学生時代、彼女はずっとそう呼んでいた。久しぶりに聞く懐かしい響きに、信行はパジャマを握りしめたまま、彼女を見つめた。視線が絡み合う。真琴の潤んだ瞳の中に、信行は自分の姿と……遠い過去の情景を見た。しばらく見つめ合った後、真琴が腕を解こうと
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第152話

真琴をベッドに下ろし、信行が口づけようと身を乗り出すと、真琴は両手でそっと彼の顔を包み込んだ。まるで大切な宝物を扱うかのように、優しく、繊細に。手のひらに伝わる温もりを感じ、信行は彼女の手首を握り、その瞳を深く見つめ返した。視線が絡み合う。真琴は彼を見つめ、そっと呼んだ。「……信行!」信行は彼女の右手を取り、その甲に口づけを落とした。同時に、体中が熱くなり、彼女を見る瞳は情熱的な色を帯びていく。手の甲をくすぐるキスに、真琴の目は潤み、口角を上げて微笑んだ。生き生きとした笑顔だった。顔から手を離し、真琴が目を閉じると、信行は唇に口づけた。ただ……信行がさらに深く求めようとした時、真琴は彼の優しいキスに誘われるように、すぅと寝息を立て始めた。無防備に眠ってしまった真琴を見て、信行は呆れつつも、愛おしさが込み上げた。最後に額にキスをし、着替えを持ってバスルームへ向かった。……翌日。真琴が目を覚ますと、もう午前九時を回っていた。信行はすでに起きており、部屋の隅で仕事の電話をしていた。腕を目に乗せ、ぼんやりと昨日の記憶を辿る。墓参りに行き、夜は皆に食事を奢り……結構な量を飲んだ。その後のことを思い出し、真琴の気は重く沈んだ。飲みすぎて、信行を紗友里と間違え、彼の顔を触り……あまつさえ、キスまでしてしまったなんて。しかも、昨夜の支払いは全部信行が済ませたようだ。バツが悪い。他の人は酔うと記憶が飛ぶというのに、どうして自分は鮮明に覚えているのだろう?すべてではないにしろ、肝心なことは何ひとつ忘れていない。信行の方を見ると、彼がちょうど電話を切ろうとしていたので、慌てて視線を戻した。その時、信行がベッドに近づいてきて、何事もなかったかのように告げた。「母さんが飯食いに来いって」腕を目に乗せたまま、真琴はゆっくりと答えた。「……分かりました。あと二分したら起きます」昨夜の失態に触れられなかったので、心底ほっとした。彼女の言葉を聞き、信行は腰をかがめて額にかかる髪を撫で、しばらく寝顔を見つめてから、またデスクに戻って仕事を再開した。部屋は静かで、キーボードを叩く音と、窓外の鳥のさえずりだけが聞こえる。しばらく横になってから、真琴は身を起こした。布団を畳み、
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