その姿はあまりに愛らしく、思わず抱きしめて頬ずりしたくなるほどだ。「お姉ちゃん」と呼ばれ、真琴は顔をほころばせた。子供目線の優しい声で応える。「会いに来てくれてありがとう、天音ちゃん」ドアの縁に隠れるようにして、小さな手でノブを握りしめ、天音は甘えるように尋ねた。「お姉ちゃん……一緒に遊んでもいい?」時計を見ると、もう十一時四十分。午前の仕事は片付いている。真琴は優しく頷いた。「いいわよ。遊ぼうか」許可を得て、天音はようやくドアを大きく開けた。嬉しそうに、けれど少しはにかみながらオフィスに入ってくる。デスクの前まで来ると、精一杯背伸びをして、チョコレートを数個、デスクの上に置いた。「これ、お姉ちゃんに」少女からのプレゼントに、真琴の表情が緩み、胸の奥が温かくなる。子供とは、なんと愛おしい生き物なのだろう。席を立ち、天音と一緒に遊ぶ。五歳半の天音はまだ小さい。真琴と話す時は見上げなければならない。だから、真琴はしゃがみ込み、目線を同じ高さに合わせて話しかける。その仕草はどこまでも優しい。年齢差はあるが、二人はまるで親友のように打ち解けていた。その頃。商談を終えた信行は、智昭に見送られて階下へ降り、真琴のオフィスへと向かっていた。ドアの前まで来た時、天音の前にしゃがみ、楽しそうに遊ぶ真琴の姿が見えた。天音を見つめる彼女の瞳は輝き、慈愛に満ちている。一瞬、信行はドアを開ける手を止めた。真琴が母親になったら、きっと……誰よりも優しく、良い母親になるだろう。幼くして母を亡くした彼女は、自分が得られなかった愛情を、全てわが子に注ぐに違いない。「片桐社長」「片桐社長」ドアの前でしばらく立ち尽くし、すれ違う社員たちに声をかけられてようやく我に返った信行は、真琴のオフィスのドアをノックした。天音の前にしゃがんでいた真琴は、ノックの音に顔を上げる。信行だと分かると、慌てて立ち上がり、笑顔で挨拶する。「いらしたのですね」そして尋ねる。「社長との契約の話ですか?もうサインは?」オフィスに入りながら、信行は何気なく答える。「いや、まだ詰めが残ってる」それを聞いて、真琴はお茶を淹れようと背を向ける。信行は、彼女の後をついて回る天音を見下ろした。その眼差しも、いつになく
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