真琴は頷いた。「早く行ってあげてください。大事な用なんだから。天音ちゃんのことは、私が見てますから」真琴の言葉に背中を押され、一明は足早に病院を後にした。その背中が見えなくなるまで見送ってから、真琴は踵を返して病室に戻る。ベッドの脇の椅子に腰を下ろし、頬杖をついて、眠る少女の寝顔をじっと見つめる。この子が、智昭に出会えたのは幸運だったと思う。はだけた薄い布団を肩までかけ直してあげていると、智昭が戻ってきた。真琴は椅子から立ち上がった。「石本さん、彼女と結婚の話があるそうで、先に行かれました」「ああ、聞いてる」智昭はベッドに近づき、天音の様子を見て布団を直し、真琴を見て言った。「帰ろう。送るよ」その話を聞いて、真琴は首を横に振る。「社長、タクシーで帰れますから、天音ちゃんのそばにいてあげてください」「天音は一度寝ると起きないし、ここには医者も看護師もいる。少し離れるくらい問題ない」智昭は言わなかったが、天音はこの病室の常連なのだ。そう言われては、これ以上断るわけにもいかない。二人でエレベーターを降りると、外はすっかり日が落ちていた。病院の中は煌々と明るい。救急外来の出入り口へ向かおうと、エレベーターホールに出た時だ。まだ自動ドアにも着かないうちに、信行が由美を横抱きにして、外から飛び込んでくるのが見えた。二人の背後には数人の取り巻きが続いており、皆一様に心配そうな顔をしている。だが、彼らが見ているのは信行の顔色であって、抱かれている由美ではない。信行は白いシャツに黒いスラックス姿で、シャツの袖はいつものようにまくられている。由美を抱きかかえ、その表情は少し緊張しており、目には由美しか映っていない。他の誰のことも、何のことも目に入らないようだ。正面から歩いてくる真琴のことさえも。信行の首に両腕を回し、由美の唇の色は普段より悪く、口紅もしていない。彼女は幸せそうに信行を見つめ、笑って言った。「信行、大丈夫よ。そんなに焦らないで。今日はちょっと疲れて、めまいがしただけだから」真琴の隣で、智昭は目の前の光景を見て、無意識に真琴を見た。しかし……真琴の目には何の動揺もない。一行が近づいてくると、真琴は淡々と彼らを見つめ、二歩後ろに下がって道を譲った。まるで、信
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