真琴は他人行儀に言った。「ありがとう」車の前まで来ると、信行はドアを開けて真琴を乗せ、シートベルトを締めてやり、松葉杖を収納してから運転席へと回った。車が滑らかに発進し、まずは辻本家の実家へと向かった。迎えに来た真琴の姿を見て、哲男は眉をひそめた。「紀子も心配性じゃな。何でまた検査なんぞ。夏場で暑いんじゃから、食欲が落ちるのも当たり前じゃろう。それに真琴、足も悪いのに、何で無理をして来るんじゃ」そう小言を言った後、信行も来ていることに気づき、哲男は挨拶した。「信行くんも来たのか」文句を言いつつも、哲男は二人に連れられて大人しく病院へ向かった。検査の結果、以前からの持病以外に大きな問題は見つからなかった。担当医は言った。「七十も過ぎておられますし、若い頃にご苦労もされていますからね。この状態なら、むしろ良い方ですよ。加齢に伴って身体機能が低下するのは自然なことです。あまり気になさらないでください」医者の言葉は理屈では分かるが、やはり祖父にはいつまでも健康で長生きしてほしい。哲男が療養病棟に戻った後、真琴は医者の部屋で詳しいケアの説明を聞き、それから杖をついて病室へと戻った。……その頃、哲男の病室。真琴がまだ戻らないので、信行が彼に付き添っていた。今、病室には二人きりだ。真琴と信行が離婚話を始めてからしばらく経ち、真琴も芦原ヒルズを出たが、手続き完了の報告はまだない。哲男は我慢できずに尋ねた。「信行くんと真琴はどうなっとるんだ?真琴は手続き中だと言っておったが、本来ならとっくに終わっとるはずじゃろう」哲男の問いに、信行は悪びれもせず、さらりと言った。「真琴と離婚する気はありませんよ」祖父は驚いて目を見開いた。「離婚する気がないだと?弁護士に協議書を作らせたんじゃないのか?財産分与もしたと聞いたぞ。何で離婚しないんだ?」信行は平然と言った。「協議書は、真琴に見せるために作ったんです。いざ本気で踏み出そうとした時に、心が揺らいで、俺との生活が惜しくなるかと思いまして」信行は、真琴が躊躇し、名残惜しむと思っていた。何しろ長年の付き合いだ。結局のところ、情は残っているはずだと高を括っていた。そこまで言って、信行は薄く笑って付け加えた。「それに、真琴に渡したのは
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