由美と母親が信行を見送りに下へ降りてきた時、真弓は少し悲しげな顔を作って言った。「信行さん、おばあちゃんが急かすのを悪く思わないでね。あの人も自分の先が長くないことを分かっているから、あなたと由美の結婚式を早く見たいのよ」真弓の言葉に、信行は短く答えた。「ええ、理解しています」真琴の入院する病棟の前まで来ると、信行は足を止め、二人を見て言った。「おばさん、ここで結構です。俺は真琴ちゃんの様子を見てきますから」「そう……じゃあ信行さんも無理しないで、休んでね」「はい」由美も言った。「じゃあまた明日、信行」信行は二人を淡々と一瞥し、背を向けて真琴の病棟へと戻っていった。整形外科のフロアでエレベーターを降り、廊下を曲がると、ちょうど空になった弁当箱を持った紀子が、真琴の病室から出てくるところだった。紀子を見て、信行の方から先に声をかけた。「米田さん」信行の姿を認めた瞬間、紀子はあからさまに不機嫌な顔をした。そして、刺々しい嫌味を口にした。「これはこれは、信行様。二つの病棟を行ったり来たりで、さぞお疲れでしょう。お時間がないのでしたら、うちのお嬢様を見に来ていただかなくて結構ですよ。お嬢様には話し相手も付き添いもおりますから。先ほど五十嵐様からもお電話があり、お食事の手配もしてくださるとのことでした。信行様はどうぞ、未来の義母様のお宅のお世話になさってください。そうそう、早くお嬢様との離婚手続きも済ませてくださいね。ご自分はとっくに次の方を見つけてらっしゃるでしょうけど、お嬢様の『次の幸せ』の邪魔をしてはいけませんよ」ここ数年、真琴が耐えてきた苦労を一番近くで見てきた紀子は、ずっと腹に据えかねていた。今日、ようやく機会を得て、信行を叱り飛ばしてやりたかった。興衆実業の社長だろうが、片桐家の次男だろうが知ったことか。こんな仕打ちが許されていいわけがない。紀子の非難に、信行は眉をひそめて言った。「内海家のおばあ様が病気だというから、礼儀として見舞っただけだ」その言葉を聞いた途端、紀子は鼻で笑い、信行を真っ向から睨みつけて声を荒らげた。「片桐様……うちのお嬢様にホテルで内海家の次女のふりをさせ、ご自分の火遊びの後始末をさせるのも『礼儀』ですか?お嬢様との離婚手続きも済んでいないのに
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