All Chapters of 暴走する愛情、彼は必死に離婚を引き止める: Chapter 351 - Chapter 352

352 Chapters

第351話

見覚えのある姿。光雅の傍らで、気負うことなく微笑むその横顔。信行は相手の言葉を遮るようにして、無意識のうちにその姿を追って歩き出していた。しかし、人波を抜けて辿り着いた時には、茉琴はすでに会場を後にしていた。「片桐社長」「片桐社長、いかがなさいましたか?」傍らにいた者たちに声をかけられ、信行はようやく我に返った。短く会釈を返し、平静を装う。見間違いだろうか。いや、そんなはずはない。この世に、あそこまで似ている人間がいるだろうか。真琴とは長年を共にしてきた。見間違うはずがない。先ほどの後ろ姿は、確かに真琴に似ていた。いや、真琴そのものだった。そう思い至り、信行は会場の出口を振り返ったが、そこにはもう、彼女の姿はどこにもなかった。……その頃、光雅と茉琴の兄妹は、すでに車で会議センターを後にし、ホテルへと向かっていた。夜に交流会を控えているため、一度ホテルへ戻ることにした。ホテルへの帰路、前方の運転席にはドライバーが控え、兄妹は後部座席で静かに肩を並べていた。隣に座る妹をふと見やり、光雅は穏やかな声で問いかけた。「東都に戻ってみて、気分はどうだい?」その問いに、茉琴――いや、真琴はふっと笑みを浮かべた。「ええ、悪くないわ」妹の淡々とした眼差し、そして何事にも乱されない落ち着きを静かに見つめ、光雅は含みを持たせて言った。「用事が済み次第、早めに帰るんだぞ」「ええ」真琴は事もなげに応じた。ほどなくして、車はホテルのエントランスに滑り込んだ。二人が車を降りると、ドライバーは駐車場へと車を回した。エレベーターでビジネス会議室へと上がると、そこには智昭、淳史、一明の三人が、すでに彼らを待ち受けていた。西脇家の兄妹が姿を見せた瞬間、淳史と一明は信じられないものを見たかのように目を見開いた。二人は言葉を失い、食い入るように茉琴を凝視した。何度も顔を見合わせ、それから弾かれたように智昭を振り返る。真琴……?あまりにも、似すぎている。変わったのは、纏う雰囲気や放たれるオーラ、わずかに高くなった背丈、そして右の目尻の下にある黒子くらいのものだ。それらを除けば、その造作はかつての真琴と、何ひとつ変わるところがなかった。一方、智昭は平然とした様子で光雅と握手を交わし
Read more

第352話

「帰ってきたな」智昭のその一言に、真琴の胸には万感の思いが込み上げた。ようやく、我が家に帰り着いた――そんな安らぎが彼女を包み込む。二年。東都市を去ってから、丸二年の月日が流れていた。当時、彼女がこの街を離れる決意をしたのは、心身の状態が限界に達していたからだ。物忘れが激しくなり、何をしても力が入らず、言葉がもつれて吃音さえ出るようになっていた。東都市に残された記憶はあまりに苦しく、何より、信行との執着を断ち切りたかった。一人の人間として再起するために、「信行の妻」という身分から逃れるしかなかった。行き止まりの壁にぶつかった彼女が助けを求めたのは、智昭だった。学生時代、あれほど自信に満ちて輝いていた真琴が、結婚生活を経て疲弊しきった姿を、智昭は見ていられなかった。彼女の持つ類稀な才能を、このまま腐らせておくわけにはいかない。智昭は真琴に道を示した。過去を捨て、この街を出ろ、と。あの火災で見つかった遺体は、智昭が彼女のDNAデータに基づき、特殊な繊維で作り上げさせた精巧な偽物だった。病院の鑑定結果すら、彼は裏から手を回して書き換えさせた。芦原ヒルズが炎に包まれたあの夜、真琴を救い出したのは智昭だった。茂みに身を潜め、震える彼女の隣で、紗友里への無言の別れに寄り添い続けたのも彼だ。親友を欺く苦しさに、彼女の心は千々に乱れた。けれど、そうしなければ自分を救うことはできなかった。さもなければ今頃、彼女は精神病院の暗い部屋にいたかもしれない。智昭は自ら車を走らせて真琴を空港まで送り、新しい身分資料と航空券を託した。そして、浜野市で光雅が彼女を受け入れられるよう、すべての段取りを整えた。別れ際、智昭は言った。「今日からは、新しい始まりだ。過去はすべて忘れていけ。愛だの恋だの、手に余るものはもういい。これからは研究にその情熱を注げ」あの夜、智昭と別れる真琴の瞳は、真っ赤に腫れ上がっていた。その日を境に、彼女は今までの人生と決別した。もはや「辻本真琴」ではない。西脇家の次女、「西脇茉琴」だ。不慮の事故で亡くなった本物の妹の代わりとして、悲しみに暮れる家族を救ってほしい――光雅から与えられたその新しい身分を、彼女は智昭の言葉とともに受け入れた。智昭の計らいを信じた。あの時この街を去ったのは、すべてを断
Read more
PREV
1
...
313233343536
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status