信行は何も言わず、ただ黙々と煙を吐き出し続けた。すると拓真が再び口を開いた。「万が一、だぞ。もし真琴ちゃんが完全には元に戻らず、後遺症が残ったとしたら……お前はどうするつもりなんだ?」その「万が一」を聞いた瞬間、信行は指に挟んだ煙草を押し殺すように消し、迷いなく答えた。「もしそうなったら、離婚なんか絶対にしない。一生あいつを養うし、一生俺が面倒を見る」拓真は思わず吹き出し、からかうように言った。「今のセリフ、録っておいて真琴ちゃんに聞かせてやりたいぜ」信行は嫌そうに彼を睨みつけた。「……当てつけか?」「本音が漏れたんだろう。当てつけなわけあるかよ」信行は鼻で笑うと、遠くの景色に視線を投げた。その頃、廊下では。紀子に支えられた真琴が、バルコニーの方から静かに視線を戻し、両手で手すりを掴んで慎重に体の向きを変えると、また廊下の向こう側へとゆっくり歩を進め始めた。この二日間、彼女はこうして廊下での歩行訓練を繰り返していた。付き添う紀子は、思わずバルコニーの方を振り返る。さっきの信行の言葉は、ようやくまともな人間が言うことだ。間もなくして、二人は病室へと戻った。真琴がベッドに座って自分の脚を揉んでいると、紀子が水を注いで持ってきてくれた。サイドテーブルにグラスを置くと、紀子はぽつりと漏らした。「……さっきの信行様のお言葉。ようやく、まともな人間らしいことを仰るようになったと、少し見直しましたよ」真琴は顔を上げ、黙って紀子を見つめた。紀子はそのまま言葉を続ける。「お嬢様。正直に言えば、お二人の離婚には、手を挙げて賛成でした。一刻も早く別れて、あんな男からは自由になってほしいと願っていたくらいです。けれど……旦那様が亡くなり、お嬢様まで倒れてしまって。やはりお嬢様には、誰か寄り添って守ってくれる相手が必要だと思い知らされました。信行様を庇うわけではありませんが、今回ばかりは本当に頼もしかった。葬儀のような大きな場を仕切るのも、看病のような細かなお世話も、何から何までそつなく、完璧にこなしてくれました。病気の妻にあそこまで至れり尽くせりで尽くせる男なんて、そうそういませんわ。だから、こう考えてはどうでしょう。あごで使える運転手、あるいは何でも言うことを聞く使用人が手に入ったと思えば
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