로그인その言葉に、由美はさっと血の気を失い、大きく見開いた目で彼を睨みつけた。「信行、何を言ってるの!?どうして私がそんなことをしたなんて疑うのよ!」由美には痛いほど分かっていた。あの顔を持つ女に何か起きるたび、信行は決まって真っ先に自分へ疑いの目を向けるのだと。あまりにも、信用されていない。激昂する彼女に対し、信行は冷ややかに言い放つ。「お前と無関係なら、それでいい」真琴があの顔で戻ってきていなければ、由美をここまで疑うことはなかっただろう。だが、その顔と、自分に対する由美の強い欲望と執着を思えば、信行としても嫌でも勘ぐり、疑念を抱かざるを得ないのだ。直接問い詰めたのは、彼女の咄嗟の反応を見て、その表情から綻びを見つけ出したかったからである。疑いの眼差しに射抜かれ、由美はしばらく耐えるように見つめ返していたが、やがてその目を赤く潤ませた。そして、震える声で絞り出す。「信行、そんな風に疑われるなんて、ひどすぎるわ。私がいったい何をしたっていうの?どうしてそこまで疑われなきゃならないのよ。何年も付き合いがあるのに、あなたの目に映る私は、そんな恐ろしい女だったの?第一、私には西脇さんに危害を加える理由なんて一つもないじゃない。内海家や峰亜を道連れにしてまで、あんな恐ろしい真似をするはずないわ!」その必死の弁明を、信行はただ冷たい目で見下ろす。あえて最も疑われやすい状況を作り出し、裏をかくことこそが常套手段でもある。彼が無言を貫くのを見て、由美はさらに泣きそうな顔で訴える。「目を覚まして!西脇さんは真琴ちゃんじゃないわ。それに、仮に彼女が真琴ちゃんだとしても、あなたたちに復縁の可能性なんてないのよ!それに、知ってる?彼女はもう五十嵐さんといい仲になっているのよ。昨日なんて、五十嵐夫人が直々に食事を届けに来ていたんだから!どうして信行はいつも過去ばかり振り返るの?どうして今を見ようとしないの?成美の時もそう、真琴ちゃんの時もそう!私もあの二人と同じように死ななきゃ、愛してくれないって言うの!?どうして一度でいいからチャンスをくれないの!?せめて、私を通して成美を懐かしむことだってできるじゃない!」その痛切な問い詰めに、信行は淡々と真実を突きつける。「俺が成美に抱いていたのは愛じゃない。ただの感
夜になり貴博が姿を現しても、今日に限って玉代は席を外そうとはしなかった。これまで幾度となく二人に場を譲ってきたが、貴博という男の本質を見極め、本当に真琴を託すに足る人物か、その目で見定めたかった。結果として、一晩言葉を交わしただけで、玉代は貴博をすっかり気に入ってしまった。容姿端正なだけでなく、立ち振る舞いまで非の打ち所がないと絶賛するほどである。何よりも、真琴に対する深い愛情と誠実さが真っ直ぐに伝わってきたのが、一番の決め手であった。……一方、信行の病室。母と妹を追い返した彼の元へ、今度は由美が大量の差し入れを抱えてやって来た。由美を冷めた目で見つめる信行の機嫌は、すこぶる悪かった。この数日間、由美は貴博が真琴の元へ通うのと競い合うかのように、足繁く信行を見舞いに訪れていた。だが、信行は彼女の厚意に心を動かされることもなく、二人の距離が縮まることは一切なかった。彼女に微塵の希望も与えるまいと、徹底して冷酷に振る舞っていた。拒絶の意は、すでにはっきりと伝えてある。にもかかわらず、由美は執拗につきまとってくる。持ってきた特製の茶碗蒸しを置き、由美は笑顔で尋ねる。「信行、今日の具合はどう?」彼が口を開く前に、さらに続けた。「さっき上がってくる時、おばさんたちとすれ違ったわ」その押し付けがましい熱意に、信行は冷淡に返す。「こんなことをする必要はない。毎日通ってくるなと言ったはずだ」冷たい拒絶に由美の顔は一瞬引きつったが、すぐに持ち直して愛想笑いを浮かべた。「そんなに邪険にしないで。別に深く考えているわけじゃないし、これで信行の気を引こうなんて思っていないわ。あなたなら、身の回りのお世話をしてくれる人には事欠かないのでしょうけれど」信行が口を開く前に、さらに畳みかける。「それに、この数年間、信行は峰亜や内海家のことをずっと気にかけてくれたじゃない。あなたが入院したと聞いて、見舞いに来るのは当然の義務よ。成美だって、きっとそう望んでいるはずだわ」またしても成美の名を持ち出す彼女に、信行は無表情を貫いた。かつてのような感傷を見せることは、もう二度とない。由美を見据え、氷点下の声で告げる。「俺が峰亜や内海家に力を貸してきたのは、成美が命を懸けて俺を救ってくれた、その恩を返すためだ。
ただ、帰りの道の一歩一歩が、まるで鉛のように重くのしかかり、呼吸をすることさえ苦しいほどだった。真琴の幸せを願って身を引こう、祝福の言葉を贈ろうと思う反面、心の中ではどうしても彼女を手放しがたく、断ち切れない想いが渦巻いている。だが、今の信行が気づいていないのは、真琴との間において、もはや彼の身勝手な「祝福」など、これっぽっちも必要としていないということだ。彼女はとうの昔に「辻本真琴」であることを捨て、浜野の「西脇家の次女」として生きているのだから。しばらくして。自室の病室に戻っても、信行の心は一向に静まらず、脳裏には貴博と楽しげに談笑する真琴の姿が焼き付いて離れなかった。それを思い出すだけで、耐えきれずに激しく咳き込んでしまう。「信行お兄ちゃん、ママは帰ってくる?」「信行お兄ちゃん、ママが欲しいよ」「信行お兄ちゃん、今から飛び降りるから、絶対に受け止めてね」「信行さん……」今この瞬間、無性に真琴に会いたかった。彼女のあの日記帳を思い出す。ページを埋め尽くすように、自分の名前ばかりが書き連ねられていたあのノートを。もし時間を巻き戻せるなら。もしもう一度彼女とやり直せるなら。今度こそ、絶対に大切にする。絶対に真琴を幸せにする。だが無情なことに、彼女は自分が「真琴」であることすら頑なに認めようとはしない。そこまで考え、再びあのDNA鑑定書を思い出す。「西脇茉琴」は、間違いなく「辻本真琴」なのだ。……同じ頃、真琴の病室。昼食を終え、貴博が用事があるからと腰を上げると、真琴も立ち上がって見送った。エレベーターホールまで並んで歩く。エレベーターを待つ間、貴博が不意に振り返って告げた。「退院したら、ぜひ私の家で食事でもどうかな」そして、真剣な眼差しで続ける。「両親が、君に正式に会いたがっていてね」その言葉の意図は明白だった。彼女と正式に交際し、恋人として実家に連れて行きたいという意志表示だ。二年間もすれ違ってきた末の、今回の再会。その眼差しには、もう二度と彼女を手放すまいという、強烈な決意が宿っていた。誰が相手であろうと、真琴を自分のものにし、大切に守り抜くという揺るぎない意志だ。その真っ直ぐな誘いに、真琴は彼を見つめ返し、堂々と頷いた。「ええ、喜んで」
もちろん、このお見舞いには由美なりの思惑があった。信行と茉琴の事故が偶然ではなく人為的なものだと聞きつけ、探りを入れるためにやって来たのだ。彼女がこの件についてどう考えているのかを見極めるために。しかし、いくら話を振っても、茉琴の口から有益な情報は一切引き出せなかった。彼女は冷淡で、余計なことは何一つ語ろうとしない。隙という隙を完全に塞がれていた。結局、由美は立ち上がり、帰るほかなかった。「西脇博士、それではゆっくり休んでくださいね。私はこれで」真琴も立ち上がり、淡々と見送った。だが、ドアの前で遠ざかる由美の背中を見送りながら、真琴の表情はみるみる険しくなっていった。病室に戻るなり携帯を手に取り、光雅へ電話をかけて声を潜める。「内海由美の周辺を洗ってみて。今回の件に彼女が関わっているかどうかを」本来なら由美をそこまで疑う理由はなかった。茉琴という確固たる身分がある以上、彼女も迂闊な真似はできないはずだからだ。だが、今日の見舞いで執拗な探りを見て、疑念を抱かざるを得なかった。電話の向こうの光雅は冷静に答える。「すでに調べている。心配しなくていいが、あの内海にはくれぐれも気をつけておけ」「分かった」真琴は頷き、仕事の話を少し交わした後、通話を終えた。もし由美が自分を狙っているとすれば、十中八九信行絡みだろう。だが、自分を消したいのなら、一人で車に乗っている時を狙えばいい。なぜわざわざ信行が同乗しているタイミングを選んだのか?まさか、二人まとめて始末するつもりだったとでも言うのだろうか。携帯を握りしめたまま考え込んでいると、再びドアがノックされた。顔を上げると、貴博が食事を持って現れた。その姿を見て、真琴の口元に笑みが広がる。「いらっしゃい」「ああ」と応じ、彼は続ける。「上の連中に口利きしておいた。あと二日したら退院していいそうだよ」ついに退院できると聞き、真琴の顔がパッと明るくなる。「ありがとうね、事務局長」その歓喜の声に、貴博は優しく返す。「礼には及ばないよ、西脇博士」相変わらず「事務局長」、「西脇博士」と堅苦しく呼び合っているが、その声のトーンには以前にはない甘い響きが含まれていた。二人で食事を並べ、いつも通り談笑しながら箸を進める。毎日顔を合
絶対にこの機会を逃すまいと、貴博自身も意気込んでいたのだ。一方、病室の中。テーブルの前に座っていた真琴は、ドアが開く音にゆっくりと顔を上げた。貴博の姿を認め、満面の笑みで迎える。「いらっしゃい」春風のような笑顔を浮かべる彼女に、彼も歩み寄りながら声をかけた。「お腹、空いただろう」真琴は頷く。「ええ、少しだけ」そして、小さく愚痴をこぼす。「どこも悪くないのに、いつになったら退院させてくれるのかしら」貴博の前では、真琴は心からリラックスできている。他の誰の前でも、これほど自然体ではいられないのだ。その言葉を聞きながら、テーブルに食事を広げつつ貴博が優しく宥める。「ゆっくり休めるつもりでいればいい。焦って退院する必要はないさ」配膳を手伝いながら、真琴は微笑む。「そうね」準備が整うと、二人はテーブルに向かい合って食事を始めた。ここ数日、彼は毎日こうして時間を捻出し、病院で彼女と食事を共にしている。真琴の器におかずを取り分けながら、貴博は単刀直入に切り出した。「信行が目を覚ましたそうだ。時間が空いたら、様子を見に行くといい。命懸けで君を守ってくれたのは、事実だからな」自分と真琴の絆、そして何より彼女の揺るぎない理性を、彼は深く信じている。その大人の気遣いに、真琴は箸を進めながら平然と返した。「さっき行ってきたわ。お礼も言ってきた」貴博に対しても、真琴は一切の隠し立てをせず、すべてを率直に伝える。「そうか」貴博は静かに頷き、さらにおかずを取り分けた。「たくさん食べて」真琴は顔を上げて微笑む。「ありがとう、事務局長」貴博が毎日見舞いに来るのを知っているため、玉代はいつもこの時間になると適当な理由をつけて席を外し、若い二人の邪魔をしないように配慮していた。本音を言えば、光雅と結ばれてほしいという思いもあったが、真琴の心にあるのが貴博だと悟り、その気持ちは胸の奥にしまい込んだのだ。実の娘の悲劇を経験しているからこそ、男女の縁には極めて慎重になり、真琴にプレッシャーをかけることも、自分の願望を仄めかすことすら一切しなかった。その後も数日間、真琴は念のための検査と称して病院に留め置かれ、すっかり退屈しきっていた。だが、二つの都市間の関係を重んじ、幹部たちの指
その問いに、真琴は冷静に答える。「私は何ともありません。ただ、念のため二日ほど様子を見るように言われているだけです」信行は安堵したように頷いた。「無事ならよかったです」その言葉を最後に、またしても病室は重い沈黙に包まれた。しばらくの間、二人は交わす言葉を見つけられずにいた。先に沈黙を破ったのは信行だった。彼は真琴を真っ直ぐに見て言う。「お掛けください」そして、深く頭を下げた。「この度は大変怖い思いをさせてしまい、心よりお詫び申し上げます」彼女を無理に引き止め、話をしようとしなければ、この事故に巻き込まれることはなかったはず。だが真琴は椅子には掛けず、立ったまま冷淡に告げる。「あの事故は、ただの偶然ではないかもしれません。片桐社長も何か手がかりを思い出したなら、警察に知らせてください……それと、事故の時に庇っていただいたことには、感謝いたします」もし彼が覆いかぶさって庇ってくれなければ、前のトラックの荷台に胸を突っ込み、今ここでこうして生きていることはできなかったはずだ。その礼に対し、信行は首を横に振る。「お気になさらず。無理にお引き止めしなければ、そもそも事故に巻き込むこともなかったのですから」そこまで聞いて、真琴はばっさりと切り捨てるように言った。「では、これでお互いに何の借りもないということで。一日も早いご回復をお祈りいたします」「ええ。博士も」会話が途切れ、またしても病室は沈黙に包まれた。今の二人の間には、もはや交わすべき言葉などほとんど残されていない。耐え難い空気が流れた後、真琴は告げる。「それでは、ゆっくりお休みください。私はこれで」彼女が帰ろうとするのを見て、無理に上体を起こして見送ろうとする信行を、真琴は振り返りもせずに制した。「一人で戻れますから、お構いなく」そう言うなり、彼が体を起こすより早く病室を出て、ドアを静かに閉めた。ベッドの上。去りゆく真琴の後ろ姿を見送った後も、信行はいつまでも視線を外せずにいた。あまりにも他人行儀で、よそよそしい態度。どれほどの間、そうして扉を見つめていただろうか。医師と看護師が回診に訪れてようやく、彼はハッとして視線を戻し、彼女への未練から無理やり意識を引き剥がすことができた。……真琴は浜野からの
信行の荒々しい口づけ。乱暴に引き裂かれる衣類の音。それでも真琴は、まるで予想していたかのように無抵抗だった。ただ冷ややかな瞳で彼を見つめ、黙ってされるがままになっている。まるで、他人事のように。首筋に唇が這う。脱がされたボトムスが床に放り投げられる。信行が自身の服に手を掛けても、真琴は身動きひとつしない。ただ顔を背け、彼を無視して、好きにさせた。分かっていた。これは愛撫ではなく、ただの鬱憤晴らしだ。これが済めば、二人の関係は完全に終わる。もう戻れない。二度と、昔には戻れない。顔を背け、彼がもたらす嵐を淡々と受け流しながら、真琴は横のタンスを見つめ……ふと、遠い記
信行の手を払い除け、真琴は淡々と言った。「……違います」ただ外の景色を見ていただけ。考え事をしていただけ。真琴がもう外を見なくなったので、信行は手を戻してハンドルを握り直し、静かに尋ねた。「司が席を譲ってくれたのに、どうして打たなかった?」「できませんから。ただ、紗友里に付き合って行っただけです」「あんなもん、二、三度やってみれば覚える」「……そうですね。では、チャンスがあれば試してみます」真琴は適当に相槌を打つ。信行が今夜、由美を置いて自分と一緒に帰宅するとは、思ってもみなかった。会話が途切れると、車内はまた静寂に包まれた。真琴はしばらく前を見つめてい
早くひ孫を見たいなら、離婚を急いで、他の人と再婚した方が早いはずだ。真琴の提案に、信行は本から顔を上げ、気だるげに言う。「お前は俺の顔を見るたびに、離婚の話しかできないのか?」そう言われ、確かにここ数日、何度かその話をして急かしていたことに気づく。真琴は気まずそうに視線を逸らし、もうその話はしないことにした。同じようにベッドに寄りかかり、本をめくる。眠くなってきたので本を置き、彼に声をかける。「もう遅いですから、早くお休みになってください」言い終えて、やはり我慢できずに一言付け加えた。「……手続きのこと、早めに時間を作ってくださいね。済んでしまえば、もう二度と言
真琴はスープを一口飲み、静かに言った。「麻雀なんてできないし……それに、信行さんもいるんでしょう?私は遠慮しておくわ」今日は金曜日だ。信行がそちらにいるなら、どうせ由美もいるに決まっている。わざわざお邪魔虫になりに行く趣味はない。それに、結婚してからの数年、真琴は彼らの集まりを避けてきた。信行に疎まれている以上、顔を出しても空気が悪くなるだけだからだ。最後に同席したのは、拓真の誕生日の時だったか。あの日、バルコニーで信行と拓真の会話を聞いてしまった。信行が離婚協議書にサインしないのは、財産分与を惜しんでいるからだと。真琴の言い訳を、紗友里は容赦なく突き崩す。「真琴、