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last update Dernière mise à jour: 2025-08-29 06:54:52

「これはリアムが作った万年筆だ。魔力共振の技術が応用されている。そしてこれは、恩師であるブラウン教授に、感謝の心と共に贈られたもの。そうだな、リアム?」

「は、はい。僕の理論を使った魔道具で、教授に恩返しがしたくて……」

 委員会のメンバーも頷いている。ブラウン教授が万年筆を使っているのは、何人かが目撃していた。

「この万年筆こそが、凶器だ」

 アレックスの言葉に、会議室は息を呑むような沈黙が落ちた。

「万年筆に組み込まれた魔力回路を使えば、時限発火のための完璧な装置になる。リアム、この魔力回路構造は他で使われているか?」

「いいえ。僕の研究はまだ発表前で、万年筆の回路は試作品です。教授に贈ったものと、予備として一本だけ作ったもの。今、アレックスさんが持っているものです。他には存在しません」

「では、実証してみよう」

 アレックスは会議室の机に発火装置を再現して、設置した。万年筆の回路と触媒が共振して、指定された通りの時間に火が起きる。

 その際に発生した魔力の共振パターンを確認すると、事件現場で見つかった触媒のものと見事に一致した。

 動かぬ証拠だった。

「ブラウン教授は、リアムが感謝の印として贈った善意そのものを、自らのアリバイを作り出すための時限爆弾に変えたんだ。……見事なパズルだよ」

 追いつめられたブラウン教授は、青ざめた顔で言い訳を言おうとして――結局反論できずに、崩れ落ちるように机に手をついた。

「私は……リアムを妬んでいたのではない。恐ろしかったのだ! 彼の『魔力共振理論』は、あまりに革新的で危険すぎる。あんなものを発表すれば、彼は異端者として学会から追放されて才能を潰されてしまう! 私は可愛い教え子の未来を守るために、彼が道を誤る前に、全てを燃やしてやるしかなかったのだ……!」

 それは嫉妬ではなかった。歪みきった師の愛情と保身が生んだ、善意の犯行の真相だった。

「愚かな」

 アレックスは吐き捨てる。

「結

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  • 魔術都市の分解学者   13

    「これはリアムが作った万年筆だ。魔力共振の技術が応用されている。そしてこれは、恩師であるブラウン教授に、感謝の心と共に贈られたもの。そうだな、リアム?」「は、はい。僕の理論を使った魔道具で、教授に恩返しがしたくて……」 委員会のメンバーも頷いている。ブラウン教授が万年筆を使っているのは、何人かが目撃していた。「この万年筆こそが、凶器だ」 アレックスの言葉に、会議室は息を呑むような沈黙が落ちた。「万年筆に組み込まれた魔力回路を使えば、時限発火のための完璧な装置になる。リアム、この魔力回路構造は他で使われているか?」「いいえ。僕の研究はまだ発表前で、万年筆の回路は試作品です。教授に贈ったものと、予備として一本だけ作ったもの。今、アレックスさんが持っているものです。他には存在しません」「では、実証してみよう」 アレックスは会議室の机に発火装置を再現して、設置した。万年筆の回路と触媒が共振して、指定された通りの時間に火が起きる。 その際に発生した魔力の共振パターンを確認すると、事件現場で見つかった触媒のものと見事に一致した。 動かぬ証拠だった。「ブラウン教授は、リアムが感謝の印として贈った善意そのものを、自らのアリバイを作り出すための時限爆弾に変えたんだ。……見事なパズルだよ」 追いつめられたブラウン教授は、青ざめた顔で言い訳を言おうとして――結局反論できずに、崩れ落ちるように机に手をついた。「私は……リアムを妬んでいたのではない。恐ろしかったのだ! 彼の『魔力共振理論』は、あまりに革新的で危険すぎる。あんなものを発表すれば、彼は異端者として学会から追放されて才能を潰されてしまう! 私は可愛い教え子の未来を守るために、彼が道を誤る前に、全てを燃やしてやるしかなかったのだ……!」 それは嫉妬ではなかった。歪みきった師の愛情と保身が生んだ、善意の犯行の真相だった。「愚かな」 アレックスは吐き捨てる。「結

  • 魔術都市の分解学者   12

     ブラウン教授の権威と巧みな弁舌の前に、リアムを養護するどころか、逆にミリーは取材規定違反を問われる始末だった。オルドリッジ学院長は失望の表情で、二人に調査の中止を言い渡した。 リアムの自作自演は濃厚になり、たとえ事故だとしても研究室の管理不行き届きに問われる。退学はこれで決定的となった。◇ 時計塔に戻った二人の間には、重い沈黙が流れていた。ミリーは自分の無力さに打ちひしがれる。「私のせいだ。私が中途半端にリアムさんを信じたばかりに、彼を追い詰めてしまった……」 アレックスは、解けないパズルを前にしたかのような、苛立ちの表情で部屋を行き来していた。「人間の感情は、常に論理を歪ませる。教授の嘘、学生の絶望……このパズルは、ピースが多すぎる」 時計塔の中には重い沈黙が流れていた。巨大な歯車が軋む音だけが、部屋の空虚さを際立たせる。 ミリーはリアムの悲しげな顔を思い出して、罪悪感に苛まれる。もう事件を解決しようという気力もなかった。リアムが自作自演で卒業制作を燃やすほどに追い詰められていたのであれば、やるべきことは真相の解明ではなかったのだ。(もっとリアムさんを思いやるべきだった。それに……) 彼女は誰に言うでもなく、ぽつりと独り言を呟いた。「特製の万年筆。恩師への感謝の気持ちだって、あんなに嬉しそうに話してくれたのに。そんな人が、本当に……」 小さな呟きを、アレックスは聞き逃さなかった。彼にとって「感謝」「贈り物」という感情的な言葉は、これまでパズルに存在しなかった新しい変数(データ)だった。「その万年筆とやらは、ただの万年筆か? 特徴を全て話せ。感情はいい、構造だけを説明しろ」 アレックスの鋭い声に、ミリーは顔を上げた。「詳しく話せ、見習い記者。それはどういうものだ?」 アレックスに促されて、ミリーはぼんやりとしたままリアムから聞いた万年筆の特徴を説明した。「魔力を込めると、ペン先から微弱

  • 魔術都市の分解学者   11

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  • 魔術都市の分解学者   10

     翌朝、学院は昨夜の事件で騒然としていた。 ミリーが現場となった研究室へ向かうと、廊下に衛兵隊が張った規制線の向こうで、憔悴しきったリアムが膝を抱えて座り込んでいた。研究室の中からは、魔力が焼けた後のツンとした空気の匂いと、焦げた木の匂いが漂ってくる。 衛兵隊の隊長らしき男が、部下に指示を出しているのが聞こえた。「現場は見ての通り、内側から魔法錠を施錠してある。争った形跡もなし。追い詰められた学生がやったんだろう。よくある話だ」(よくある話ですって? ろくに調べもしないで。彼がどれだけ情熱を注いでいたか、知りもしないくせに) ミリーが唇を噛み締めていると、廊下の向こうから一人の人影が静かに歩いてきた。オルドリッジ学院長だった。衛兵たちが敬礼し、道を開ける。 ミリーは学院長の登場に一縷の望みを託したが、その隣に立つ人物を見て、息を呑んだ。(嘘。なんであの男がここに!?) 着古した黒いコートに、全てを退屈だと言いたげな灰色の瞳。 悲しき歌姫の事件で出会った、時計塔の主。アレックス・グレイだった。 ミリーが目を丸くしてアレックスを凝視していると、オルドリッジ学院長は不思議そうに首を傾げた。「おや、ミリー君。こちらのアレックス君と知り合いかね?」「はい。その、以前、別の事件で」「ああ、なるほど。新聞記者の君ならば、知り合う機会もあるか。アレックス君は私の教え子でね。とても優秀で頼りになる人だ。今回このようなことが起きてしまって、私も憂慮していた。だから彼に調査を依頼したのだよ」 学院長はアレックスに向き直った。「見ての通りだ、アレックス君。衛兵隊は事故だと結論付けたが、私はどうにも腑に落ちん。あのリアム君が、自ら未来を絶つようなことをするとは……」「そうですか。まずは現場を見せてください」 アレックスは気のない返事をすると、黒焦げになった研究室に足を踏み入れた。 彼は内部の惨状を、まるで他人事のように眺める。床に散らばる繊細な魔道具の残骸にも、壁に残る魔力火災の痕跡にも、一

  • 魔術都市の分解学者   09:燃やされた卒業制作

     魔術都市の頭脳と称される「王立学院」。その壮麗な白亜の塔が、朝日に輝いていた。  ミリーは、デイリー・ピープルの記者として、数日後に迫った卒業制作発表会の取材のため、その門をくぐった。活気に満ちた構内では、才能あふれる若き魔術師や錬金術師たちが行き来している。誰もが希望に満ちた表情をしていた。(すごい。ここが国の未来を作っている場所なのね。エレオノーラさんの事件とは全く違う、明るい光に満ちている) ミリーは胸を躍らせながら、取材対象者の一人が待つ研究棟へと向かった。 取材対象の一人リアム・コリンズは、平民出身ながら特待生として入学した天才。雑然とした研究室の中は、卒業制作の資料でいっぱいになっている。どれもが読み込まれ、付箋や栞が挟まれ、よれよれになっている。  リアムの研究に対する情熱がよく見て取れた。  ミリーは学院の教室に移動して、リアムへの取材を開始した。「僕の研究は『魔力共振理論』といいます。その、魔術の基本的な構造を、もっと効率的にできるかもしれないんです」 リアムは物静かで、少し気弱そうな青年である。初対面のミリーに気後れしていたが、徐々に熱を込めて話すようになった。  魔術に関して素人のミリーにも、わかりやすいよう言葉を選んで説明してくれる。「とても画期的な研究ですね!」 ミリーが素直な感想を言えば、リアムは恥ずかしそうに微笑んだ。「はい。そのつもりでいます。僕の研究はたくさんの人に支えられて、ここまで来ました。特に指導してくださったブラウン教授には、いくら感謝しても足りません。せめてものご恩返しに、特製の魔道万年筆を贈ったんですよ。喜んでくださいました」「まあ、素敵。リアムさんの研究が世に広まるのが楽しみです」◇ 対照的だったのが、もう一人の取材対象、イライアス・ブレッケンリッジだ。有力貴族の嫡男である彼は、ミリーとリアムが話しているところに割り込んできた。「平民がいくら足掻こうと、血筋と本物の才能には敵わない。卒業制作会で、それを証明してやろう」 イライアスは傲慢そうな笑みを浮かべる。リアムは困ったように笑った。「僕は全力を尽くすだけだよ。研究は才能の証明のためにあるわけじゃない。よりよい技術を世に広めるためだ」「ハッ! 綺麗事を言うな! 卒業制作で優勝すれば、名誉と賞金が手に入る。狙っていないと言えるのか

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