しかし、その予想は良い意味で裏切られることになる。社長室に案内された悦子は一人ではなかった。彼女の隣には、譲の婚約者である汐莉が寄り添っていた。詩織と汐莉は、これが初めての顔合わせだった。悦子の紹介で、汐莉の背景が明らかになった。彼女の父親は西部経済圏における新エネルギー・クリーンエネルギー産業を牛耳る重鎮であり、彼が創立した『サンライズ・エナジー』は、現在国内トップクラスのエネルギー企業だという。「先日、サンライズ・エナジーの視察に行ったのだけれどね」ソファに腰を下ろした悦子は、上品な笑みを浮かべて切り出した。「汐莉ちゃんが、信頼できる半導体の開発拠点を探していると言うものだから、真っ先にあなたのところの『中博テック』が頭に浮かんだのよ。それで、戻ってすぐに彼女を連れてきたの。良いご縁が繋げないかと思ってね」詩織は内心ひどく驚いていた。まさか悦子が、この土砂降りの状況で傘を差し出してくれる存在だったとは。深い感謝の念から、詩織は汐莉に対しても極めて丁寧な態度で接した。「提携の具体的な話は、当人同士で進めてちょうだい。私みたいな素人が口を挟む野暮はしないわ」そう言うと、悦子はソファが温まる間もなく立ち上がり、あっさりと辞去した。詩織は密に指示を出し、悦子をエレベーターまで見送らせた。執務室には、詩織と汐莉の二人だけが残された。いざ本題へ入ろうとした矢先、汐莉はゆったりとソファに背を預け、詩織の顔を上から下まで値踏みするようにじっと見つめ始めた。数秒後、その艶やかな顔に、ふっと意味深な笑みが浮かぶ。「……私のこと、あなたに似てるって言う人が多いんですけど」甘ったるくも刺のある声で、汐莉は口を開いた。「私の方がずっと美人だと思いません?」その口ぶりは、なんとも奇妙な響きを持っていた。『えざき・しおり』――皮肉にも名前の読みが完全に一致しているばかりか、顔立ちまで似ていると真正面から比べられたのだ。これまで二人に全く接点がなかったと分かっていなければ、詩織は初対面の令嬢から突然マウントを取られ、露骨な当てこすりを言われているとしか思えなかっただろう。詩織は表情一つ変えずに、淡々と本題に入った。「中博の半導体技術は、国内でも常にトップレベルを維持しています。もし提携させていただけるなら、必ずサンライズ・
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