詩織の目に、そこに表示された価格が飛び込んでくる。2億円——本当によく出すわ……けれど、詩織はそれを羨ましいとも、不公平だとも思わなかった。むしろ、自分で買った車に乗る方が、ずっと心が落ち着く。たとえ、この車の値段が向こうの十分の一にも満たなくても。詩織が車種を決めると、京介はまず試乗してみることを勧めた。乗り心地を確かめて、納得してから決めるべきだと。言われた通り、詩織は試乗車で店の周りを一周してみる。ハンドリングも良く、乗り心地も申し分ない。すっかり気に入った詩織は、店に戻って契約を済ませることに決めた。店の入り口まで戻ってくると、そこには志帆と美穂の姿があった。どうやら誰かを待っているらしい。詩織は試乗車を駐車場に停め、営業担当と共に店内へ向かった。そこで、志帆と美穂も詩織の存在に気づく。美穂と話していた志帆は、詩織を見るなり、すっと表情を曇らせた。しかしすぐに視線を外し、何事もなかったかのように美穂との会話に戻る。「大丈夫よ、ちょっと擦っただけだって。ひどい傷じゃないから、そんなに思いつめないで」今朝、美穂が運転中に、誤ってバンパーを擦ってしまったのだ。彼女は真っ青になって、すぐに車をこのディーラーに持ち込んだという。連絡を受けた志帆も、様子を見に来たというわけだ。幸い傷は浅く、志帆もほっと胸をなでおろした。そして、ショックを受けている美穂を慰めることも忘れない。「もう、心臓が止まるかと思ったわ!だってこれ、柊也さんがお姉ちゃんに贈った愛の証じゃない。もし私のせいで何かあったら、どうしようかと……!」「大丈夫よ。柊也くんは、こんなことくらいで怒ったりしないわ」ほどなくして、柊也も姿を現した。「お義兄さん、早ーい!よっぽどお姉ちゃんのことが心配だったのね!」美穂がからかうように言う。志帆は笑顔で柊也を出迎えた。「大したことじゃないのに……わざわざ来なくてもよかったのよ。美穂が勝手に連絡しちゃって」そして、気遣わしげに続ける。「お仕事、邪魔じゃなかった?」いつものように、物分りのいい女を完璧に演じている。「君に関することなら、些細なことなんてないさ」柊也はこともなげに言った。「ちょっと、二人とも!いちゃつくなら場所を考えてよねっ、私だっているんだから!」目
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