それに、あの金柑の鉢植え……あれはまるで、肉に食い込んだ棘のようだった。普段は意識しなければ痛みもないくせに、ふとした瞬間に思い出しては、じくりと疼いて不快にさせる。今すぐにでも、引き抜いてしまわなければ。なんという巡り合わせか、詩織と志帆は、なんと発表順が前後する隣り合わせのクジを引き当てた。志帆が先で、詩織が後。ちょうどいいわ。志帆はそう思った。これなら、詩織との「格の違い」を、柊也くんにこれ以上なくはっきりと見せつけることができる。学歴も、能力も、何もかも。詩織は、私には到底敵わないのだと、すべての人に知らしめてやる。なにしろ私には、WTビジネススクールの経済学博士という肩書きがある。それは、詩織には永遠に手の届かない高みだ。一方の詩織は、そんなこと少しも意に介さなかった。志帆のことなど頭の隅にもなく、どうすればパートナーの緊張をほぐせるか、そのことで頭がいっぱいだった。技術者というのは、こういう性質の人が多いのかもしれない。技術のことしか目になく、一人で深く思考することを好み、社会との関わりが少ない。いかにも智也らしいとも言える。「持ち時間は全部で十分。スピーチ原稿は八分くらいの内容だから、時間はたっぷりあるわ。もし緊張して言い間違えても、ちゃんと立て直せるから大丈夫」詩織は、智也に言い聞かせるように分析してみせた。「さっきからお水、結構飲んでたみたいだし。ステージに上がる前に、一度お手洗いに行っておくといいわ」「うん」智也は、詩織のその実行力に、改めて感心していた。「他の人のプレゼンは、私がしっかり見ておくから。参考にできるところは盗んで、私たちの力にしましょ」やがて、注目製品プレゼンテーションが始まった。最終選考に残っただけあって、内容は多岐にわたり、どれも業界屈指のプロジェクトばかりだ。五番目に、志帆が登壇した。彼女がたった一人でステージに立つのを見て、詩織は少し意外に感じた。本来なら、技術的な内容は開発者本人が説明する方が、ずっと説得力があるはずだ。それをあえて一人で。よほど、自分のプレゼンに自信があるのだろう。以前、北里市で坂崎社長と食事をしたとき、志帆が自身のプロジェクトについて話していたのを思い出す。あのときの坂崎社長の評価は、たしか「いまひとつ
Read more