まさか、ブロックしていなかったの?どういう風の吹き回し?狐につままれたような気分で画面を見つめていると、すぐに柊也から返信が来た。【何か用か】あまりの即答ぶりに、詩織は一瞬携帯を取り落としそうになる。だが、すぐに気を取り直してビジネスモードの文面を打ち込んだ。【賀来社長に、折り入ってお願いがありまして】柊也からの返信はドライなものだった。【俺の流儀は知ってるだろ。頼み事なら対価を用意しろ。ボランティアじゃないんでな】詩織は脳内で柊也を八つ裂きにしてミンチにしてやりたい衝動を抑え込み、短く打ち返した。【条件は?】もしふざけた要求をしてきたら、即座にスクリーンショットを撮って、志帆に送りつけてやるつもりだった。しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。【詩織。俺、ケーキが食いたい】……は?これが条件?不気味すぎる……まるで詩織が断らないと確信しているかのように、すぐに柊也から追撃のメッセージが届く。【今回は正真正銘、お前の手作りな。この前みたいに既製品で誤魔化そうなんて思うなよ】「……」詩織は画面を見て絶句した。あいつ、味が分かるわけ?どうやら、同じ手口は通用しないらしい。詩織が場所を尋ねると、すぐに位置情報が送られてきた。詳細を確認してみれば、以前呼び出されたのと同じホテル、同じ部屋番号だ。おそらく、婚約者の志帆に見つかって修羅場になるのを避けるためだろう。だからこそのホテル密会というわけだ。詩織は仕方なくキッチンに立った。手作りしろとは言われたが、丹精込めろとは言われていない。形になっていれば十分だ。適当に焼いてやる。仕事を終えてから向かった詩織に対し、柊也はすでに部屋で待機していたようだ。ノックをした途端、すぐにドアが開く。柊也はシャワーを浴びた直後らしく、バスローブを一枚羽織っただけの姿だった。着崩した襟元からは、湯上がりの肌と、鍛え上げられた胸筋がちらついて見える。詩織は努めて冷静に視線を逸らし、手に持っていたケーキの箱を突き出した。しかし柊也は受け取ろうとせず、揶揄うような口調で言う。「まずは検品だ。手抜きされてないか確かめないとな」いちいち注文の多い男だ。露骨に警戒心を滲ませる詩織を見て、彼はくつくつと喉を鳴らした。「そんなに身構えるなよ。取
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