どうでもいい人たちのために、一秒たりとも時間を無駄にしたくなかったからだ。だが、彼女は結局、一歩遅かった。ホテルのスタッフは告げた。北川院長一行は、食事を終えてもう出発した、と。ほんの、十分前のことだった。三十分、いや二十分の遅れなら、まだ諦めもついたかもしれない。けれど、たった十分だなんて……!あとほんの少しで、会えたのに。あまりにも残酷な現実に、詩織は全身の力が抜け、為す術もなかった。疲れ果てた体を引きずるようにして、ホテルを出る。外にはもう、柊也と志帆の姿はなかった。そこに待っていたのは、京介だけだった。彼はどこか頑なな様子で、詩織に問いかける。「今度こそ、病院に行けるか」詩織の言う通り、嘘ではなかった。確かにただの擦り傷だ。しかし、見た目は痛々しい。特に膝の傷は深く、歩くたびにずきりと引きつれ、心の芯まで突き刺すような鋭い痛みが走る。「家まで送る」彼女の傷の手当てを終えて、京介はようやく安堵の息を漏らした。「いえ、まだやることがありますから」詩織はまだ諦めていなかった。もう一度、何とかして食らいつこうとしていた。「一体、何が君をそこまで焦らせるんだ」京介は見ていられなくなり、冷めた声で尋ねた。これは自分の問題だ。京介に話す必要はないと詩織は思った。彼を帰させようとした、その時だった。徹から電話がかかってきたのだ。詩織は重要な知らせを逃すまいと、すぐに応答した。徹は、ひどく残念そうな声で告げた。専門家チームが診る患者は、もう決定したらしい。別の方法を考えた方がいい、と。詩織の鼻の奥がつんと痛み、熱いものがこみ上げてくる。親指の爪を人差し指の関節に強く食い込ませ、何とか感情を押し殺そうとした。しかし、声はそれでも震えていた。「専門家チームが江ノ本市に着いたのって、今日の午後ですよね?まだ病院にすら来ていないのに、もう人選を終えたって……どういうことですか」「北川院長が決めたことらしくてね。詳しい事情までは、私も分からないんだ」徹も、ただの一介の医師だ。これ以上、どうすることもできないのだろう。通話を終えた瞬間、詩織はまるで氷の穴に突き落とされたかのようだった。四方八方から押し寄せる冷たい奔流が、彼女の体を包み込んでいく。「どうしたんだ」彼女の尋常でない顔色を見て、
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