スカイウィング社に到着する頃には、雨足は先ほどよりも強まっていた。しかも、ここの駐車場は屋根がなく、車を降りてからエントランスまで少し距離がある。柊也は先に車を降りると傘を広げ、志帆が出てくるのを待った。彼女が降り立つのを確かめると、二人で一つ傘の下、迷わず歩き始める。その間、詩織の存在など端から頭にないようだった。まあ、そうよね。一本の傘で、二人同時に庇うなんて無理な話だもの。柊也のえこひいきなんて、今さら数え上げる気にもなれない。詩織はドアを開け、雨の中を走り抜ける覚悟を決めた。大した距離ではない。けれど、晩秋の雨は、肌を刺すように冷たい。「江崎さん、少し待ってて」エントランスの方から、傘を差した人影が小走りに駆け寄ってくる。早乙女怜だった。彼は、わざわざ詩織を迎えに来てくれたのだ。「こんな冷たい雨に濡れたら風邪をひきますよ」傘を詩織の上に大きく傾けながら、怜が説明するように言った。「特に女性は体を冷やしちゃいけませんからね」「ありがとうございます、早乙女社長」詩織は心から礼を言った。「はは、水臭いなぁ。それより、この間妻に紹介してくれた伝統医学の先生、すごく効いてるんですよ。薬を二服飲んだだけですっかり元気になって。君に会ったら必ずちゃんとお礼を言うようにって、きつく言われてるんです。それに、ぜひ食事に誘ってくれってね。どうです、今夜あたり」「奥様がご丁寧になさることはありませんわ。ほんの些細なことですもの」二人は談笑しながらエントランスへと向かう。その光景は、傍から見てもとても和やかなものだった。庇の下では、志帆と柊也がその様子を待っていた。二人の姿を認めると、志帆は片方の眉をくいと吊り上げ、柊也に尋ねる。「江崎さんと早乙女社長って、なんだか随分と親しげねぇ。なるほど、昨日あれだけ江崎さんに会いたいってごねてたわけだわぁ」その言葉には、剥き出しの棘がある。社会人経験のある者なら、誰にでもその裏の意味が分かるだろう。だが、柊也の反応は、志帆が期待していたよりもずっと冷ややかだった。彼は二人からすっと視線を外し、そばにいた警備員に濡れた傘を手渡すと、さっさと建物の中へ入っていく。その素っ気ない態度に、志帆は満足した。勝ち誇ったように唇の端を吊り上げ、彼の後を追った。詩
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