空気が凍りついた、その時。志帆が絶妙なタイミングで口を挟んだ。「もういいじゃない、柊也くん。きっと江崎さんは、濡れ衣を着せられたと思って、それで怒ってしまったのよ」「それに、彼女は長年あなたの秘書を務めてきた人でしょう?あなたが技術鑑定をしなかったのも、彼女を信じてのことなんでしょうし。もう真相なんてどうでもいいわ。この話は、これでおしまい」詩織は、志帆を見た。人間の心の醜さを、これほどまでまざまざと見せつけられたのは初めてだった。見事なまでに、計算され尽くした揺さぶり。一見、自分を庇っているように見せかけながら、その言葉の端々からは全く別のメッセージが滲み出ている。柊也は、その言葉を渡りに船として、この場を収めた。「この件はこれで終わりだ。二度と誰も口にするな」最初から最後まで、詩織を擁護する言葉は、一言もなかった。これが、彼の答えなのだ。詩織は、心の中で何かが引き裂かれるような感覚に襲われた。その痛みは、五臓六腑を締め付けるように全身に広がっていく。もはや、真相を追求しようという気力さえ、失せてしまった。どうせ何を言っても無駄なのだ。彼の心の中では、とっくに自分は有罪なのだから。これ以上、言葉を費やすだけ無駄だった。一瞬、いっそ本当に自分がやったことであればよかった、とさえ思った。そうすれば、柊也も心置きなく自分を解雇できるだろう。それもまた、一つの解放ではないだろうか。志帆は、破れたドレスを残念そうにつまんだ。「明日は祝賀パーティーなのに、どうしましょう。着ていくドレスがなくなってしまったわ」柊也はクローゼットの中を見渡し、やがて、ある純白のサテンドレスの上で視線を止めた。「これを着てみろ」彼が指差したのは、詩織が自分のためにあつらえた、あのドレスだった。彼と、密かにお揃いで着るはずだった、あのドレスだ。新しいドレスを見つけた志帆は、たちまち喜色満面になった。「このドレスも素敵ね。私に、よく似合いそう」二人は、まるでそこに誰もいないかのように、新しいドレスについて語らい始めた。詩織の目に映るのは、甲斐甲斐しく柊也にドレスを当ててみせる志帆の姿と、それを満足げに眺める男の横顔。先ほどの渦中に取り残され、身動き一つとれないのは、自分だけ。もう、こんな日にはうんざりだった。一刻も早く
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