「もう少し公私混同を止めたらどうなの?個人の感情でビジネスを判断するなんて、経営者としてどうかと思うわ」ここまで追い詰められてなお、志帆は信じて疑わなかった。詩織が自分を冷遇するのは、柊也を奪われた嫉妬のせいだと。立ち去りかけた詩織が、ぴたりと止まった。ゆっくりと振り返るその瞳は凍てつき、整いすぎた美貌が冷酷な刃物のような鋭さを帯びている。「個人の感情?」詩織は鼻で笑った。「私と柏木さんの間に、そんなものあったかしら」「とぼけないでよ!」志帆の剣幕に対し、詩織はあくまで淡々としている。その薄い笑みが、かえって残忍さを際立たせていた。「本気で言ってるの? 悪いけど、心当たりがないわ」「なによ、その態度……!そうやって余裕ぶっても、結局は柊也くんが私を選んだのが悔しいんでしょ!?」志帆は必死にマウントを取ろうとするが、詩織はまるで出来の悪い喜劇でも見たかのように吹き出した。「柏木さんって、その認識力も学歴みたいにペラペラなのね」「学歴」という言葉は、志帆の心に突き刺さったままの棘だ。それを詩織に無造作に触れられ、張り詰めていた理性の糸がプツリと切れた。「……言わせておけば!」志帆は羞恥と怒りで顔を歪めながら、金切り声を上げる。「図星なんでしょ? まだ柊也くんのことが忘れられないくせに!だからいつまでも彼氏も作らず、独り身でいるんじゃない!」どうだ、言い返せないだろう。志帆は勝ち誇ったような顔で詩織を睨みつけた。だが、詩織の完璧な笑みは微塵も揺るがない。それどころか、ゆったりと紡がれる言葉が、目に見えない圧力となって志帆にのしかかる。「滑稽ね。どうして私が、『男を作る』ことで柊也への未練がないと証明しなきゃいけないの?」詩織は冷ややかに言い放った。「彼、そんなに偉いわけ?」その予想外の返しに、志帆は言葉を失い、ぽかんと口を開ける。詩織の視線は、もはや志帆を見ていなかった。その冷たい眼差しは、志帆の背後に佇む人影を真っ直ぐに射抜いている。――賀来柊也。彼はじっと詩織を見つめ返していた。その瞳にどんな感情が渦巻いているのかは読み取れない。間違いなく、今の会話は聞こえていただろう。だが、彼がどう思おうと詩織には関係のないことだ。ただ、これだけは二人に思い知らせてやりたかった。賀来柊也も、柏木志帆も。
Magbasa pa