「お姉ちゃん、今日はやけに気合入ってるね。柊也さんとデート?」部屋に入ってきた美穂が目を輝かせる。志帆は鏡の前で髪を整えながら、ふふっと笑った。「違うわ。今日は大事な投資家の方と会うの」そう言いながら、ジュエリーボックスを開ける。美穂はここぞとばかりに派手なダイヤのネックレスを指差したが、志帆はそれを無視して、清楚な鈴蘭を象った小ぶりなイヤリングを選んだ。「えっ、それだけで行くの?」地味すぎない?と美穂が首を傾げる。「これがいいのよ」さらに志帆はクレンジングシートを取り出すと、完璧に仕上げたはずの真紅のルージュを拭い去ってしまった。「あーっ!せっかく塗ったのに!」「……色が強すぎるのよ。これじゃダメ」数多の男を見てきた志帆の直感が告げている。二階堂澪士という男は、派手で自立した女よりも、守ってあげたくなるような「儚げな少女」を好むはずだ。彼女は薄付きのグロスを引き直し、今流行りの「すっぴん風メイク」を完成させた。鏡の中には、計算され尽くしたか弱きヒロインが映っている。「完璧ね」満足げに立ち上がる志帆に、美穂も慌ててバッグを手に取った。母・和代からは『志帆にくっついてハイスペックな男を捕まえなさい』と言い含められているのだ。しかし、志帆はドアノブに手をかけたまま振り返り、冷たく言い放った。「今日は私一人で行くわ。あんたは留守番してなさい」「えぇー……」志帆が澪士との会食に選んだのは、先日、黄島に屈辱を味わわされたあの個室だった。現れた澪士は、部屋を見渡して口端を吊り上げた。「面白いね。俺はてっきり、君がこの場所を嫌ってると思ってたよ」彼はふんぞり返るようにソファに座り、志帆を見据えた。「どうして?」「だってここ、君にとっては最悪の思い出がある場所だろ?」志帆は伏し目がちに睫毛を揺らし、瞳の奥の光を隠すように微笑んだ。「……でも、素敵な出来事もあった場所ですから」黄島に虐げられた場所であると同時に、貴方が救ってくれた場所でもある、と。その含みのある言葉に、澪士の瞳からいつもの気怠げな色が、ふっと薄れた。「二階堂さん。この間のお礼をさせてください」志帆はグラスを持ち上げ、彼に向かって掲げた。中身はやはり、あの夜と同じ強い酒だ。「……よせよ。大したことしてない」澪
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