受話器の向こうから、呆れたような、それでいて微かに諦めが滲む声が聞こえた。「……何だ?」「お金よ」詩織は間髪入れずに切り込む。「振り込んだら戻ってきたわ。どういうこと?」柊也が小さく息を吐く気配がした。「あの絵はやるよ。俺からの贈り物だと思って受け取れ」「タダより高いものはないわ。そんなの受け取れるわけ……」言い返そうとした言葉を、彼は静かに遮った。「見返りは求めない。ただの……償いだ」柊也の声が、一段低く沈む。「今の俺には、金で解決すること以外、お前にしてやれることが何もないからな」一瞬の沈黙。「もう遅い。さっさと寝ろ。これ以上、この件で頭を悩ませるな。……おやすみ」ツーツーという電子音が、一方的に会話の終わりを告げた。「なによそれ、意味わかんないんだけど」事の顛末を聞いたミキは、心底理解不能といった顔でフリーズした。「『金以外、何もしてやれない』って何?詩織がいつ、その他の何かをねだったって言うわけ?そもそもあんたが一番辛かった時、あいつ何かしてくれたっけ?無視決め込んでたくせに!」ミキは鼻息荒く断言する。「ほんと、頭おかしいんじゃないの?」「同感ね」詩織も肩をすくめた。「何か悪いもんでも食べたのかしら」ミキは訝しげに目を細め、ストローをかじりながら推理を巡らせる。「まさかとは思うけど……アイツ、ゲス帆との婚約を破棄して、あんたにヨリを戻そうとしてるんじゃないでしょうね? もしそうなら軽蔑なんてもんじゃないわよ。最低最悪のクズ男確定だわ」「考えすぎよ」詩織は鼻で笑い飛ばした。「それはないわ。私とあいつ、似てる所がひとつだけあるもの。――一度吐き出したものを、また皿に戻すような真似はしない質だってこと」「ならいいけど」ミキは安心したように胸を撫で下ろした。詩織のことだ。タダで絵を受け取るなんて性分じゃないだろうし、何としてでも18億円を返そうとするに違いない。そこでミキは、ポンと手を打って名案を披露した。「ねえ、いっそ彼が金を受け取らないならさ、二人の結婚式のご祝儀にしちゃえば?」ミキは悪戯っぽくニヤリと笑う。「18億円のご祝儀なんて前代未聞よ。スッキリするし、ゲス帆への最高の嫌がらせにもなる。一石二鳥じゃない?」「ふっ……ミキ、あんた天才ね」「でしょ? 完璧すぎる作戦だわ!」ミキは自
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